イベント紹介Event Information
タグチファインアートでは上記の期間約7週間にわたり岩名泰岳の作品展示をお こないます。
岩名泰岳(いわなやすたけ)は1987年三重県生まれ。2010年に成安造形大 学造形学部造形美術科洋画クラス卒業。卒業後すぐにアートアワードトーキョ ーで準グランプリを受賞。2006年には第1回三重テレビ大賞、2020年には三重 県文化賞文化新人賞を受賞しています。卒業後2012年までドイツに滞在し、研 究生としてデュッセルドルフ美術アカデミーで学びました。現在は故郷である 三重県伊賀市島ヶ原を拠点に活動。大阪や東京のギャラリーで個展を重ね、 「三重の新世代」展 (2015年 三重県立美術館) や「青森EARTH 2019: いのち 耕す場所」展 (2019年 青森県立美術館)、「ステイミュージアム」展(2020年 三重県立美術館)など、美術館での展示の機会も増えています。
彼は2013年に結成された島ヶ原村民芸術「蜜ノ木」の初代代表を務め、都会 の発想から生まれたアートを地方に移植するいわゆる「アートによる地域興 し」的なものとは一線を画し、衰退していく集落に残って地元の歴史や風土、 文化に深く根ざしながら、それぞれの分野で現実と戦っていく若者たちの創造 的な行為自体をアートとして発信してきました。 こうした「蜜ノ木」の活動は近年、アートコレクティブやローカリズムの事 例として特に注目されていますが、そのなかで生み出される岩名の作品は、故 郷の自然や村の信仰をモチーフとし、多くの場合具象的な題材から出発しては いるものの、その抽象度は高くとても洗練されたものとなっています。
岩名は、昨年春からの新型コロナウィルスによる移動の自粛要請のもとで、 地元の野山を彷徨い、打ち捨てられた廃屋や文字の消えかかった墓石に、忘却 や死について思索に耽ったと言います。タグチファインアートで3回目の個展 となる本展では、作家が、過剰な移動がもたらした災禍について、過疎地から 世界を想いながら描いた新作を展示致します。
世界中で疫病が蔓延してどこにも行けなくなった一年、自分の暮らす集落を幽 霊のように歩きはじめた。つい最近までそこにあった朽ちた家は数日の間に潰 されて、灰色の砂利を敷いた更地に変わっていた。ここで暮らしていた人を知
っていた気がするけれど、今ではもう思い出せない。森のお堂の近くでは苔む した丸い石や顔が砕けた野仏に出会った。それらはここで生きていただれかの 名前や家族の記憶を刻んでいたはずだが、過疎の歳月は雨と風と機械によって そのしるしを削っていった。これらの残された光景についての絵を記すことに した。
2021年2月 島ヶ原にて 岩名泰岳
なお、3月13日(土)午後17:00より19:00まで作家を囲み、ささやかなレセプ ションを行います。初日ではございませんので、ご注意下さい。皆様のお越し を心からお待ち致しております。