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ギャルリー東京ユマニテにて、「Collaboration '98 山本容子&和田誠展 『2人のシネマ』」が2022年3月7日(月)から3月26日(土)まで開催されます。
銅版画家、画家として幅広いジャンルで活躍する山本容子、そして、イラストレーター、グラフィックデザイナーのみならず日本のアートシーンに大きな痕跡を残した和田誠。2人の交流は1990年代、愛猫シジミの絵本制作のため、和田が自身初めて銅版画制作の手ほどきを山本から受けたことに始まります。その後1998年には2人で初めてとなるコラボレーション油彩作品の展覧会を当画廊の名古屋、東京店で開催。映画好きの2人がお互いに少しずつ筆を進めて完成させた100号大(112.1×181.8cm)の大きなカンヴァスには「天井桟敷の人々」「ゴットファーザー」「アラビアのロレンス」「スターウォーズ」などの名作が描かれました。
今回の展覧会は1998年に発表された4点の他に翌年追加された2点(「第三の男」「七人の侍」)を含む計6点の油彩を改めて、東京では24年ぶりに展示いたします。昨年東京オペラシティアートギャラリーで開催された大規模個展でその仕事が再評価された和田ですが、生前今回の油彩コラボレーション作品も是非多くの方に見て頂きたいという思いがあり、今回の展覧会となりました。また、油彩の他にそれぞれが思い出ある映画をモチーフにした銅版画も出品いたします。さらに、地下の展示スペースでは実際の制作の様子を撮影したビデオもご覧いただけます。2人の貴重なコラボレーション世界をお見逃しなく是非ご高覧下さい。
犬の目の語り続けし薄暑かな
山本容子さんは銅版画の名手で、ぼくの銅版画の師匠でもあります。
容子さんにはルーカスという名の愛犬がいました。その愛犬を絵本にしたのが『犬のルーカス』です。その時期、ぼくの家にはシジミという名の猫がいました。『犬のルーカス』を出した出版社から絵本の依頼が来た時、容子さんが自分の愛犬をテーマにしたと同様に、ぼくも愛猫シジミをテーマにしたら『犬のルーカス』と対になる絵本ができると思い、題名も『ねこのシジミ』にしようと考えました。どうせ対にするなら絵の手法も同じがいい、とも。手法を同じにするならいつもと同じ絵具で描くのではなく、銅版画にしなくちゃいけない。でもぼくは銅版画をやったことがない。(略)
そこで容子さんに直接相談しました。(略)容子さんはぼくの仕事場に来て、懇切丁寧に指導してくれたんです。何とかできるようになったので銅版画第一号を文庫本の表紙に使い、そのことを報告したら、「もう仕事に使ったの?厚かましい」と呆れられました。
『ねこのシジミ』は無事完成。『犬のルーカス』に次いで出版されました。その後、(略)容子さんとぼくが映画をテーマとする「二人のシネマ」展を開いたり。「二人のシネマ」は銅版画だけでなく油絵の共作もしました。大きなキャンバスに「七人の侍」「ゴッドファーザー」など二人が少しずつ描いて埋める試みです。そのため容子さんのアトリエに通い、そこでルーカスとご対面。ルーカスと顔を合わせると何か語りかけるように見つめてくれる。すでに老犬になりつつありましたが、お利巧さんのいい犬でした。「犬の目」の句は「暑いねえ、ぼくは毛皮を着てるし」と言っているルーカスです。
『五・七・五交遊録』 和田誠著(白水社、2011) より抜粋