イベント紹介Event Information
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ユカ・ツルノ・ギャラリーは、mamoruの個展『私たちはそれらを溶かし地に注ぐ/WE MELT THEM AND POUR IT ON THE GROUND』を2021年6月5日(土)から7月3日(土)まで開催いたします。本展では、日本統治時代の台湾東海岸で日本人考古学者によって発掘された新石器時代の住居跡にまつわる調査を中心に、歴史やアーカイブにおける「リスニング」のアプローチから見えてくる、権力のメカニズムや抵抗の身振りといった、歴史の語りのなかで絡まりあう様々な力関係、言説、物質性を紐解き、想像を促す映像インスタレーションを発表します。
ある響きの中に身を置き全感覚を傾けそれが何であるかを想像し続ける。 集中すればするほど「それが何であるか」という結論めいた断定は先送りされ想像が膨らんでいく。聴く人はその響きのただ中で共振しはじめると、響きと一体になる。
mamoruは、日常のなかの微かな音に耳を傾ける行為に始まり、テキストやビジュアルイメージのなかで喚起される音を想像することや、歴史の記述からこぼれ落ちたり黙殺されてきた物事に目を向け耳を傾け探求する姿勢を「リスニング」と捉えています。そこから、調査や資料から浮かび上がってくる声/語り/歌を紡ぎ、音を採取し、テキストを書き、その集合体として音楽と映像が多面的に織り成すパフォーマンスやインスタレーション作品を通して、残響や共振として現在も響きあう複数の世界として繰り広げられる「リスニング」を実践してきました。
「リスニング」のアーティスティック・リサーチプロジェクトとして展開されている『私たちはそれらを溶かし地に注ぐ』は、日本統治下の第二次世界大戦中に日本人考古学者によって発掘された台湾東海岸の遺跡にまつわる歴史を語るときの不在性と流動性を扱っています。前作で、アジアにおける植民地主義の歴史に埋もれてしまった小さな歴史たちの時空を超えた接続点を扱っていた作家は、オランダ東インド会社が作った要塞跡の調査のために台南を訪れた際にこの遺跡について興味を持ち、発掘作業の経緯や意図を調査してきました。同タイトルの映像作品では、米軍空襲を受けながらの危険な状況にも関わらず発掘調査を行なった考古学者の研究報告とインタビューのアーカイブをもとに、近代科学の探求としての重要性を持ちながらも、帝国主義の権力構造のなかで植民地政策に関わらざるを得なかった考古学者の声とその物語が提示されます。また、考古学者たちを襲い、遺跡付近に撃ち込まれた弾丸の行方を追うなかで出会った台湾先住民の一つであるプユマ族の長老が持つ記憶を通して、全く別の抵抗の物語が接続されます。
新作の映像と彫刻作品は、プロジェクトにとって重要なモチーフとなった弾丸、そして太平洋戦争で使われた弾丸に用いられた鉛の多くがアメリカのオクラハマで採掘されたという史実を経由することで、繰り返し拾い集められ、溶かされ、歴史のなかで形を変えて姿を現れる鉛の物質性を考察することを試みています。なかでも、液体と固体の中間の物質であるガラスの内部に鉛を含んだ鉛ガラスを使った作品では、両物質の可変的なあり方が、歴史や歴史の語りを完結したものとして扱うのではなく、歴史資料やアーカイブのなかにある不在や隙間と現在の世界との繋がりに耳を傾け、想像する作家の実践と共鳴するものとしても捉えられています。
これらの「リスニング」の複合的な実践や作品は、歴史がどのように語られてきたのかという問いとともに、その記述そのものから追いやられたり、日常のなかで見落とされてきた個別で具体的な出来事、人物、言説、資料、物質たちの音や響きに耳を傾け、想像の幅を広げていくことの必要性に働きかけています。