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ANOMALYにて、高橋大輔 個展「絵画をやる―ひるがえって明るい」が2022年9月10日 (土) から10月8日 (土) まで開催されます。
高橋大輔 (1980年、埼玉県生まれ) は、色彩が幾層にも重なった厚塗りの抽象絵画で知られる一方、近年は、ゆるやかにその作風を移行させ、具体的なモチーフを持つエキセントリックな絵画を発表しています。本展では、最新作を含む絵画約30点を展示いたします。
2011年以降の約5年間に、高橋は、夜に蛍光灯の下で絵画と対峙して描く厚塗りの《夜の絵画》から、家族構成や生活環境の変化により昼型の制作リズムとなったことで、明るい日のもとで自分の外側の世界も視界に入れながら描く薄塗りの《昼の絵画》へと転換し、さらに、画面の上層にニスを塗布し、自身と絵画を物理的に距てた《眠る絵画》へと作品を展開させました。
その後、2016年頃からは、数字などの記号が描かれた作品が萌芽的に現れ始め、近年では、自動筆記によるドローイングを契機に生み出された、文字を画面に取り入れた《白昼夢》シリーズを発表、さらに、子供の玩具を描いた《Toy》シリーズなど、身の回りにあるものをモチーフとする作品へと推移しています。
これらの新鮮な画面は、一見すると、描かれた絵の具それ自体を支持体にして絵の具を塗り重ねていく厚塗りの抽象絵画という、従来の高橋のスタイルからかけ離れているように見えますが、実際に作品の前に立つと、これまでの制作形態から抽出されたエッセンスが、細部へと落とし込まれていることが見て取れます。
例えば、《白昼夢 #4》(2022年)における、背景に塗布された白い油絵具の筆致、チューブから直に描かれた線のエッジ、構図のリズムは、約3mにおよぶ巨大な画面において顕在化し、《太陽》(2022年)では、考え抜かれた一切の無駄のない線描と絶妙なバランスが緊張感を生み出す一方で、伸び伸びとした開放的な空間が広がっています。
高橋は、綿密なプランドローイングや検証を重ねた後にタブローへ向かいます。縄文/弥生などの時代年号や平成/令和などの元号を表す漢字(表意文字)、トラやキリンなどの子供の玩具、フライパン、一円玉、パイナップル、家の外壁など、日常生活において見慣れたものが、高橋の粗密かつリズミカルな筆致により、細部の関係性や、各所に広がる抽象的な空間に目が奪われることでゲシュタルト崩壊のような状態を促し、再び画面全体に視野を戻せば、日常から現れたモチーフが立ち上がり、ユーモラスに私たちと対面します。
最近の私の制作は、個人的な事情や社会的な危機により、今までのような厚塗りのスタイルだけで描くことが困難になりました。
そんな危機の中、私は一人の芸術家である前に、父として、生活者として、自立しなくてはならず、そのことが絵に変化をもたらしました。
子供のように描いたらいけないのか?文字を描いたらいけないのか?スタイルが変わってはなぜいけないのか?
信じる絵画観を疑ってみたり、技法書を参照したり、正当な美術史以外の美術ジャンルを作品に反映させたり、足し算だけで描くのではなく引き算したり、様々なレベルでのトライアルがありました。
そうした試みの果てに、私は日常や環境に生かされているという気持ちが強くなりました。今までやってきたことや、生きてきた時間の外側を見つめるようになりました。そして、自分が今居る場所や等身大の日常、ひいては自分が生きているということを強く肯定することになったのです。
気持ちは、ひるがえって明るくなり、さらに身近なものを描くようになりました。例えば、玩具や、文字、家の外壁などです。描くべきものはすぐ近くにあったのです。
私はどんな状況でも絵を描いてきました。これからも描くのだと思います。
高橋大輔
絵画空間が生活空間と密接な関係を取り結びながら深化する高橋の作品は、すでに見知ったはずの世界と出会い直し、新しく世界を捉えなおすことのできる装置として、私たちの前に現れます。
時事刻々と変化する環境に真摯に向き合いながら作品を展開させてきた高橋による、新たな作品群にぜひご期待ください。
本展に際し、大阪中之島美術館 学芸員の大下裕司氏にテキストをご執筆いただきました。是非あわせてご一読ください。
大下裕司 「絵画は手段か」
また、会期中の9月29日(木)には、高橋大輔とロジャー・マクドナルド氏 (インディペンデント・キュレーター)によるトークイベントが行われます。こちらは詳細が決まり次第、弊廊のホームページやSNSでご案内いたします。
ANOMALY
2022年9月1日