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塩竈市杉村惇美術館にて、若手アーティスト支援プログラムVoyageの公募により選考された映画監督・美術家・文筆家の鈴木史個展「Miss. Arkadin」が2022年7月16日(土)から9月4日(日)まで開催されます。
※同時開催 工藤玲那 個展「アンパブリック マザー アンド チャイルド」
鈴木は大学在学中から自主映画の制作を始め、現在は映画と映像インスタレーションの制作を行っています。自身の経験に深く根ざしたジェンダーへの意識に基づき、社会的に多くの人々とは異なるとされる自身の存在への理解を求めるその作品は、ジェンダーにまつわる思考を喚起します。
本展では「見られること」をコンセプトに、Miss. Arkadin(ミス・アーカディン)という名の女性を仮に自身が演じ、パーソナルな事柄も含まれる、身の回りの人物との会話風景をもとに作品化。自身のルーツを辿り過去を見つめ、自身が何者であるかを問い直します。本展が、ジェンダーに関する認識が決して他人事ではないものとして考えるきっかけとなることを願います。
<関連企画>
ギャラリートーク 鈴木史・工藤玲那
2022年7月16日[土]10時30分 企画展示室
作品解説等、作家によるギャラリートーク。
※要展示観覧料。要予約(定員15名)
※申込みは
こちらから
鈴木史監督作品上映会+ トーク 小田原のどか × 鈴木史
鈴木史監督による映画作品『未来への抗議』(2021年/10分)等を上映。併催するトークイベントでは小田原のどか氏をゲストに迎え、今回の展示にまつわる内容や、鈴木が幼少期に塩竈で映画にふれた体験等について話します。
2022年7月17日[日]
14時開演/13時30分受付開場 遊ホール塩竈市本町1-1 壱番館5階
チケット:一般1,000円 大学生・高校生800円/メンバーシップ会員500円 中学生以下無料
※展示観覧チケット付き。要予約
※申込みは
こちらから
■特別審査員による講評 ※五十音順、敬称略
映画とインスタレーションによる表現を通して、鈴木は過去に一度断ち切ったという、自身の過去を知る人びとが暮らす故郷・塩竈にまつわる記憶や、自己を取り巻く様々なものたちと出会い直す構想をしめしています。オーソン・ウェルズの映画『アーカディン氏』の登場人物が呟く「私は私が何者かわからないのだ」という独白のように、鈴木は自身の過去と故郷への深い忘却の認識からこの構想をはじめます。しかし、その構想は映画『アーカディン氏』の結末を超えて、偏見や拘束をもたらす未来に抗議し、自己の実存的な記憶と土地との関わりを更新し、新たな現実を生み出す生成の政治へとひらかれています。過去と未来、見るものと見られるもの、他者と自己、男性と女性といった二項対立的設定に収まりきらない、繊細で鋭い人間=世界生成のビジョンに深く共感します。
石倉敏明(人類学者・秋田公立美術大学大学院准教授)
実のところ、応募プランの書類を見た限りでは、精度の高い展示が実現できるのか未知数である、というのが最初の印象であった。というのも、鈴木は映像作品の制作を主軸にしており、上映ではなく展示形式で作品を見せることについては、他の応募者に比べて多くの経験を有しているとは言えないと思われたからだ。しかし、面接審査において、塩竈市杉村惇美術館を会場に展示を行うことに対しての動機と必然性を知り、「若手アーティスト支援プログラム」のおそらくは一番の力点である「支援」は、鈴木の応募プランにこそふさわしいものであると、応募案への第一印象を改めた。見る/見られる、秘密をあかす/あかされるという映画史に立脚した展示プランを、映画としてではなく展示という実空間へと敷衍し、創造的に読み替えんとする鈴木の提案が、ほかのどこでもなく杉村惇美術館で実現されることを心から支援したいと思い、評価した。
小田原のどか(彫刻家・評論家・出版社代表)
プレゼンテーションを聴きながら、このプランが発する「いま、ここ」でやるべきだという強い動機と切実さを感じていた。自分を調査させるという超越的な視点を用いて、自身の過去、ルーツ、現在を直視する態度には、強い自己開示への欲望と恐怖がせめぎあっているように見える。とある女性の調査報告書を覗き見るように展示会場をめぐるうちに、愛憎でこんがらがった糸はほぐれていくのだろうか?鈴木が今住まう東京と、故郷塩竈をつなぐ小さな糸が見つかるといいなと思うし、芸術的手段を通して表現されたそれは、いつの間にか「いま、ここ」を離れて、普遍的な私たちの話になるのだろう。
三瀬夏之介(日本画家・東北芸術工科大学教授)