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TARONASUにて、野又穫の個展「月下 - Gekka」が1月21日(金)から2月19日(土)まで開催されます。
新作6点を中心に、野又にとって約4年ぶりとなる日本での個展となります。
「月下 - Gekka」
古代から現代に至るまで、人類の頭上にはいつも月があり、
人間は度々そこへ到達しようと、想像と期待を募らせてきました。
現代における技術の進歩は目覚ましいものがありますが、
人類が月面に足を踏み入れて数十年、まだ月は昔の姿を保っています。
絶えず変容しながら人類史が繰り広げられていく地球に対して、
月はある種の対比的な意味合いを持ちながら、粛然と存在しています。
実は90年代にも、同じタイトルの作品を制作したことがありました。
当時から月に対して興味を持っていましたが、
かつてないグローバル化を遂げた世界が直面した初めてのパンデミック時代を経て、
この対比的な関係に、あらためて非常に強い関心を抱いています。
野又穫
野又穫は絵画、立体、版画、ドローイングなど多様な手法を用いながら、想像上の建築物をモチーフとした作品を制作する。日常で気に掛かる事象を空想建築で表現する野又は、しばしば「予兆の画家」として形容される。その近未来的であり回顧的でもある彼の作品は、現代の都市だけでなく地球の未来を考える契機を鑑賞者に提案する。
「空想建築」をひとつの言語としてとらえる野又の出発点は、幼少期を過ごした町にある。町工場と住宅が隣接する商工業地域だったその場所で、染物屋を営む父母のもと伝統的デザインに触れる一方で、煙突や鉄塔の構造的部分に関心を持つようになった。特に1960年代半ばの東京ではオリンピックを前に都市開発が盛んに行われ、建設中の東京タワーに新たな都市への期待が寄せられるなか、野又もまた未来への高揚を感じていたのだった。
東京藝術大学デザイン科に入学し、精密主義の代表作家チャールズ・シーラーの作品やメディアアートのトーマス・バイルレによる「都市」シリーズなどに出会い、野又自身の思考を体現するモチーフとして建築を描き始める。また、SF作家のフィリップ・K・ディック、音楽家のブライアン・イーノやエリック・サティの作品群も、野又の作品世界に多大な影響を与えたという。
写実的な建築描写と神秘的な風景は、時空を超越した世界へと鑑賞者を誘う。既視感がありながらも実在しない建物、人気のない土地や広大な空、漂う静寂。画面を構成する様々な要素に、野又は現代都市に対する自身の思いを描出しているという。しかし作品理解に「正解」を作ることは決して望んでいない。作家より与えられた鑑賞の自由は、解釈の幅を広げ、各々の背景と融合しながら新たな作品世界の構築を実現させる。
この未知なる世界との遭遇は、鑑賞者の感性を大きく揺り動かすだろう。そしてこの感性のゆさぶりこそが野又作品の真髄であり、自身の内に潜む宇宙を見出す導きとなる。この鑑賞体験は、空想建築を通じた野又の実践と共に、変わりゆく現代都市と人間の関係、一方で人間の時間を遥かに超えた壮大なリズムで存在し続ける超越的な何かについて、改めて考えを巡らせる契機にもなり得るのではないだろうか。