イベント紹介Event Information
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ユカ・ツルノ・ギャラリーにて、笠井麻衣子の個展『Moonlight』が2022年3月5日(土)から4月2日(土)まで開催されます。
約4年ぶりとなる本個展では、これまで追求してきた制作手法を継続しながら、自身の経験と深く結びついた俯瞰的でありながらも、対象を包み込むような近接した視線の関係性を絵画上で探求した新作を発表します。
笠井麻衣子は、日常の中で目にした場面をもとに自身で物語を作り上げたり、既存の物語や絵画の伝統的主題で語られえなかった部分を独自に想像したりすることによって、絵画における物語性を追求してきました。大胆な筆触やキャンバスの余白を生かした絵画には、少女や動物、着ぐるみなど、社会的に未分化であるがゆえに他者として現れる存在が登場します。西欧の伝統的な題材を再考する一方で、絵巻物などの日本伝統文化に見られる複数の時系列が同居する俯瞰的視点や花鳥風月の主題を絵画の構図に取り入れることで、永遠性の獲得ではなく、日常の事象が展開していく、時間性をともなった絵画上の物語のあり方に関心を寄せています。
しかし、出産と子育てと、さらには世界的なパンデミックによって、多くの時間を自宅で過ごしながら他者との関わりが少なくなり、日常の風景の多くがメディアによって報道されるニュースやソーシャル・ネットワーキング・サービスの情報に取って代わるなか、俯瞰的な視点に対する笠井自身の態度——他者の存在や出来事に対しての距離感——も変容してきています。笠井は、そのような変容に対して、自宅の外で起きる事象をみるときに長い絵巻を眺めているときのような既視感を持つと同時に、笠井自身も常に見られているという視線の存在への主観的な気付きがあったと言います。また、自宅に設置されているベビーモニターのカメラが監視のための緊張的な視線というよりも、空間全体に向けられた他者への慈愛の眼差として感じられたり、窓から部屋に差し込む月の光が人間の手に及ばない俯瞰的な視点によって見守られている居心地のよさをもたらしたりしたと語ります。
ますます生活と切り離せない環境で制作するなか、このような複数の視線が日常的に同居する笠井の体験は、自身が追求してきた絵画上での俯瞰的な視点を再考するきっかけとなりました。新作では、これまで探求してきた俯瞰的視点で物語を想像する眼差しとして青みがかった月の光が絵画全体を照らし、笠井自身もその光のなかで見守られているような感覚を意識しながら、少女と動物たちの切り離せない関係性が近接的な視線から描かれています。