イベント紹介Event Information
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SCAI THE BATHHOUSEにて、現代アートチーム目[mé]による初個展 「ただの世界」が7月6日(火) より開催されます。
鏡のように左右対称に作り込まれた隣合わせのホテルルーム、縁側を模した車両に乗って被災地の風景を眺めるツアー、美術館のホワイトキューブを満たす黒い水面など、場の特性を読み込んだ状況の構築と圧倒的な視覚の訴求力で知られる現代アートチーム 目[mé]。網膜に焼き付くハイパーリアルな驚きとシュルレアルな不安の間に鑑賞者を導き入れ、知覚と感情を同時に揺さぶります。考え抜かれた素材や質感のディテールは空間に行き渡り、作品が提示する世界の可能性は展覧会の会場を後にした日々の脳内で培養されることでより一層強化します。鑑賞者はその想像領域への能動的な参加によって、作品を体験し関係性を深めていくこととなります。
本展は、目[mé] の活動コンセプトを表出するいくつかの作品と状況によって構成される展覧会です。展示されるのは、時間の概念を物質の移動と捉え、鳥の群れのように小さな時計を空間に配置した《movements》、人間が認識できる「物質の移動の果て」の一つのあり様を提示する《matterα》《matterβ》など、「この世界は、私たちの肉体も含めた物質の粒がただひたすら漂い移動し続けている」と言う目[mé] 独自の量子論的世界観を象徴する作品たちです。そして本展のメイン作品、会場全体のインスタレーションとして構成されている《Life Scaper》は、これまでの 目[mé] の作品の中で用いられてきた “Scaper(スケーパー)”という概念(目による「景色+人」の造語。現実にしては出来すぎていると言えるような虚と実の間の存在。)の「所有」 をアクセプトする新たな展開を試みています。所有者個々の人生の中に存在することになる 《Life Scaper》は、まず希望者に向けてヒアリング調査を実施し、その後、目[mé] と契約を交わすことによって所有できる作品です。所有者は、通勤途中や散歩している公園など人生のどこかで、いくつかの事例写真《Reference Scaper》が示すような、儚さや滑稽さ、美しさが伴う光景に遭遇する可能性を権利として得ます。しかし、この《Life Scaper》の実施やその実態は誰にも明かされることがない※1ため、場合によっては所有者が気づかぬうちに実施されていることや、或いは真相自体が疑わしいままその権利を持つことになります。つまり所有者に、”Scaper”との遭遇への期待心と同時に、シュレディンガーの猫※2のような虚と実の両義性の中に身を置くことを余儀なくする作品です。「運命とは、ひたすらに移動している物質の無機的な因果関係に固有の視線を与えること」と捉え、意味と無意味の間の「1分の1スケールの思弁性」に対峙させようとするこれらの 目[mé] の表現は、予想や計画が立てられず、捉えきれなくなりつつある今日の私たちの日常に、逆説的な視座を通した新たな「ものの見方」や「必然のあり方」を示唆しているようにも思えます。
現代アートチーム目[mé]による弊ギャラリー初個展となる本展。虚と実の間に、圧倒的な訴求力で見ることを迫る「ただの世界」を是非ともご高覧ください。
※1 目[mé]は、《Life Scaper》の実施やその実態を一切明かさない。その他に目[mé]と所有者は、実施における情報の取扱いや責任の 所在など、十分な理解と協議の上で契約を交わす。
※2 シュレーディンガーの猫(英: Schrödinger's cat):1935年にオーストリアの物理学者エルヴィン・シュレーディンガーが発表した物理学的実在の量子力学的記述が不完全であると説明するために用いた思考実験。不透明な箱に入れた猫の生存死亡率を50%の状況にしたこの装置は「生と死が同時に存在する状態」として様々な議論を呼んだ。