※新型コロナウィルス感染拡大による社会情勢に伴い、美術館およびギャラリー施設において休廊、休館、もしくは会期の変更をしている場合がございます。詳しくは、各施設サイトをご確認いただきますようお願い申し上げます。
(追加情報 8/26:再開のお知らせ 2021年8月26日 (木) - 9月4日 (土) )
※ANOMALYでは、8月14日をもって閉幕した玉山拓郎 Anything will slip off / If cut diagonally を、期間限定で再開いたします。
展覧会へのお問い合わせやご要望が大変多く、また昨今の緊急事態宣言延長に伴い次回の展覧会日程が先送りになりましたので、短期間ながら再度オープンする運びとなりました。
なお前会期では、小ギャラリースペースで玉山拓郎の近作や、通路でWhite Watersのインスタレーションも展示しておりましたが、この度はメイン展示 Anything will slip off / If cut diagonallyのみの開催です。
見逃した方々、また再度のご観覧をご希望の皆様、時世柄どうぞお気をつけてご来場ください。
ANOMALYにて、2021年7月17日 (土) より8月14日 (土) まで、玉山拓郎 (たまやま・たくろう) 個展「Anything will slip off / If cut diagonally」が開催されます。
玉山拓郎 (b.1990) は、日用品や家具などのファウンド・オブジェクトを用い制作したスカルプチャーや、映像作品を空間に配置し、鮮烈な照明灯によって絵画的空間を作り出す、新進気鋭のアーティストです。
彼の初の大規模な個展となる本展「Anything will slip off / If cut diagonally」は、空間構成を試験的にネット上で行ったプラン展示「When I was born when I was born」と、パラレルに観ることができる、現実空間=ギャラリーでの展覧会です。
https://www.wheniwasbornwheniwasborn.website/
現実世界のものの在り方や振る舞いを規定している「重力」を、最少の手つきですり替える本展「Anything will slip off / If cut diagonally」(斜めに切れば/何もかも滑り落ちる) は、ある種の既視感を観賞者に与えるものの、ニュートン力学に支配された世界では起こり得ない状況を、極めてアナログな手法で作り出します。
例えば、90度回転した床が壁の位置にあり、そこに置かれた (掛けられた?) プレートから (当然?) 滑り落ちるスパゲティ (皿とスパゲティの振る舞いはどちらが「正しい」のか) 。
あらぬ方向に歪曲し、壁から唐突に突き出たうな垂れている「フロア」ランプ、ギャラリーの床の「地平線」とは違う角度で「水平線」を描く、グラスの中の固まった水・・・。
日常との力学的な小さな差異をオブジェクトに体現させ、空間に巨大な照明装置を援用することで、「どこでもない空間」を表出させる本展は、一見するとデジタル空間のような様相を呈します。しかし、マリオ・バーヴァやダリオ・アルジェント(*1)の映画のワンシーンを彷彿とさせる鮮烈な照明によって立ち現れるそれは、どこまでもアナログで制作されており、リアルな体験を迫ります。
また彼が作り出す空間は、誰かの夢の中の情景、あるいは『トワイライト・ゾーン』(*2)のような不条理さや、ディストピアを描くサイエンスフィクションのような奇妙さを想起させます。
「暗闇の中の薔薇は赤いか」「薔薇は誰も見ていなくても赤いか」といった問いに、色は我々の感覚なのかモノの性質なのかを考えたとき、それがモノの性質とするならば「薔薇は赤い」。
しかし知覚こそが世界そのものの提示であるとするならば、「薔薇は赤くない」(*3)。この原理的な問いを思わせる今回の展示は、同時に鑑賞者の知覚の分かち合えなさ、誰も同じ色、ひいては同じ景色を見ていないかもしれない不安を投げかけます。
その極限まで洗練されたコンポジションの、不思議な夢のようにズレを孕んだ空間に鑑賞者が介入することによって、そのズレを (自身の実感とともに) 表象する役割を鑑賞者が担います (鑑賞者がいる限り「薔薇」は赤いし、「ここでの力学」は間違っている) 。
通常の視覚を不確かにする、その光に満ちた空間にあって、3つの人の頭部と思しき円形に成形された滑らかな「表面」でしかない鏡を使った作品は、現実の空間を左右反転させて映し出し、「平坦な奥行き」という矛盾したイメージを形成します。
インスタレーション内に生身の鑑賞者が立ち入り時々その鏡面に映ることで、「鑑賞者を作品の中に見かける鑑賞者自身」という入れ子構造とズレをつくり、ヴァーチャル空間の価値を軽やかに突き放し、どこまでも実物と実体験を伴ったアンファミリア(≒Unheimlich) な世界をギャラリーに出現させます。
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オブジェクト群と空間はどちらが先でもなく、ほぼ並行して設計されている。( 両者は境界なく存在している。)
窓の外の水平線が鏡面を持ったオブジェクトを介して湾曲しながら空間内に存在している。
音は緻密に操作、演出され、反響しているかのように存在している。
オブジェクト群と空間は原始地球の海で太陽光がもたらした化学進化のように、一つの共通の光源に照らされることで可視化され存在している。
時間が物の傾きに依ってボリュームを持ち存在している。
空間を外側から見ることはできない。( 外殻のイメージは存在している。)
全ての要素は架空ではなく、限りなく現実世界の基準、実際に引き起こる現象に則して存在している。
全て二次元の中に存在している。
玉山拓郎
document of AICHI⇆ONLINE より転載
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また本展覧会では、C2Dと玉山拓郎の2人のアーティストユニット「White Waters」を召喚し、作品《I alone can fix it.》を、会場通路部分で展開します。
このユニットと今回発表する作品については、こちらから彼ら自身による解説をご一読ください。
玉山拓郎、White WatersとANOMALYが夏休みを返上して挑む、スケールの大きなインスタレーションです。
本文註:
(*1) マリオ・バーヴァ、ダリオ・アルジェント
イタリアの映画監督。ふたりとも数々のホラーを制作しており、三原色に指定した鮮烈な照明が特徴的 (バーヴァは1963年カラーフィルムより) 。
(*2)『トワイライト・ゾーン』
ここでは、SFのテレビドラマシリーズ (1950年代のドラマのリメイクがそれ以後も数多く制作されている) 。超常現象や怪異的な事象を題材にしたアメリカの人気ドラマ。
(*3) 参考:
野矢茂樹『哲学的な日々 考えさせない時代に抗して』講談社、2015年
『学会だよりNo.96 2012』、pp.5-6、上智大学哲学会 https://dept.sophia.ac.jp/human/philosophy//phil_soc/phil_soc-pdf/77program.pdf