イベント紹介Event Information
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H.P.FRANCE WINDOW GALLERY MARUNOUCHIにて、池平徹兵新作展「最後のライオン」が開催されます。
池平が創り出す画面には、鮫や鯨などの海の生き物から、ライオン、子供たち、鮮やかな花々やホットケーキにいたるまで、様々なモチーフが同居しています。これらは、全て「描きたい」という純粋な気持ちによって、1日1つずつ丁寧にキャンバスに描き加えられた生命です。池平は、それがどんなにこれまでの構図を邪魔するようなものであっても、絶対にその日に訪れた対象を拒むことはしません。曇りのない鮮やかな色彩の空間に散りばめられたモチーフは再構築され、新たに命を吹き込まれていきます。
今回ご紹介する新作シリーズには、子供が頻繁に登場します。以前まで人間を描くことは多くなかったと語る池平に変化をもたらしたものは、まぎれもなくパンデミックでした。それまで当たり前のように続いていた命のリレーがいとも簡単に遮られて行く中で、希望や未来の象徴としての子供という存在が、真っ先にモチーフとして浮かんだのです。しかし、どんなに美しいものであっても、生命には終わりがあるという事実から目を背けることはできません。この不安定な世界の中に唯一揺るぎなく君臨するのは、皮肉にも「死」という概念かもしれないのです。
作家自身が対峙する日々の体験から世界観を吸い上げ、いのちの大切さを再確認しながら描いた画面には、澄んだ空気がそよぐかのような心地よさが宿っています。この機会にぜひご高覧ください。
Artist statement:
「最後のライオン」
その日に一番描きたいものをキャンバスに加えていく。
隅々までを本当に描きたい気持ちで描くと、
描いたものは一つになることを目的とせずに一つになり始め、
全てが主役のまま、全てが互いを引き立てあう世界になる。
こうして視界の隅々までを大切に出来ると、私は幸せな気持ちになる。
時には前に描いたものが今日描きたいもののじゃまになることもある。
「少し横によけてくれないかな。」
と私は思う。
もちろんよけてはくれない。
でもそのじゃまする姿が抱きしめたいほど愛おしい。
私はその横に負けないくらい愛おしい今日を描き加える。
それはその日の描きたいものをすでに描き終えた夕方のことだった。
これから娘を保育園にお迎えに行かなければならないそんな時間。
私はたまたま老衰で死の淵にいるライオンの写真を見た。
その頃、絵の外の世界では新型コロナウィルスで沢山の高齢者が亡くなっていた。
突然私はそのライオンを描きたいと思った。
余力も時間も少ないけれど、この気持ちは明日まで保存はできない。
これからやらなければならないことも、これまでやってきたこととも関係なく、
ただ今の描きたいという気持ちが無条件に最優先された。
これが本当に描きたいということだ。
描き終えて急いで保育園のお迎えに行くと子どもたちが園庭を元気に走り回っていた。
「お迎えが遅いからお父さん死んじゃったのかと思った。」
と娘が泣きながら出てきた。
「もう少し泣かずに待っていてくれないかな。」
と私は思う。
子ども達との時間が絵を描く時間をじゃますることもある。
でもそれを抱きしめたいほど愛おしく思える。
視界の隅々までが大切だった。
私はとても幸せな気持ちになった。
−池平 徹兵