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ANOMALYにて、永田康祐 (ながた・こうすけ) の個展「Equilibres」が10月2日 (土) から11月7日 (日) までの期間、開催されます。
本展のタイトル「Equilibres」は、スイスのアーティストデュオ、ペーター・フィッシュリ・アンド・ダヴィッド・ヴァイスの、1984年から1986年にかけて制作された同名の作品名から引用しています。
この《Equilibres》(仏語で「バランス」の意味) は、日用品などスタジオにある物を組み合わせて制作した立体物を写真におさめたもので、永田はこの作品を「イメージとして流通する彫刻作品」であり、雑誌や作品集、映画のような媒体で流通した60年代後半以降のランドアートやアースワークと関係深いものであると捉えています。
永田によれば、《Equilibres》は、イメージとして流通したランドアートやアースワークにおける作品とドキュメントの関係を反転させ、かりにフラジャイルな立体物であっても記録を撮影しタイトルをつけさえすれば彫刻として成立させることができるということ、すなわち彫刻とは「出来事」であるということを、ユーモラスに暴いてみせた作品であるとしています。
そこにはオリジナルの立体 (≒作品) ではなく、そのコピーとも言える写真の側に作品としての価値が発生するという反転があります。こうした物質に対するイメージの優位は、社会に対するテレビメディアの影響力が全面化した80年代的な状況とも呼応するものだったといえるでしょう。
本展で永田は、《Equilibres》の写真作品を参照しながら3Dモデルを制作し、3Dプリントすることで彫刻作品を制作しています。《Equilibres》には、同じ立体物を撮影した複数の作品があり、永田はこれらをもとに見た目が全く同じなのにも関わらず、タイトルの異なる複数の作品を制作しています。作品のコピー (写真) を作品化した《Equilibres》をもとに作品を制作する過程で、実物とイメージ、コピーとオリジナルの関係はより複雑なものになります。永田は、80年代のマスメディアの時代に制作された「イメージとして流通する彫刻作品」を現代のメディア環境を通じて考察することで、現代におけるイメージの問題を捉えようとしているのです。
なお本展は、「元映画館」
https://www.moto-eigakan.com/で開催される
永田康祐 個展「映像の美術館 #02 永田康祐『Eating Body』」と連動しており、元映画館では今まで制作した《Translation Zone》(2019)と《Purée》(2020)の上映に加えてアーティスト自身が提供する料理の提供を、ANOMALYでは新作の立体作品を中心に発表いたします。
永田は食文化や調理技術についてリサーチをしながら、それを実際に実践する「料理人」としての側面も持っており、それは彼の作品とも密接に関係しています。調理とは、正しい計測による分量を取り出し、カッティングし変形させフォルムを作り、それを火や電磁波を使い温度や湿度を操り、発酵させるなど一定の時間をかけて、セオリーに基づき行われるものであり、物質の変化を伴う錬金術のような行為といえます。《Purée》では、道具と、摂食する身体の機能の変化を、文化と身体の関係として提示しています。
その実感をアクチュアルに共有したく、会期中、ANOMALYでも「摂食」の機会を設ける予定です。コロナ禍に於ける試みですので、各々席を離し2人が最小単位で、他とは孤立した状態で提供する、異例の「晩餐」となろうかと思います。この試みについては、追ってお知らせいたします。
元映画館と二箇所での開催、永田康祐の活動を俯瞰できる好機です。両展覧会をぜひご高覧ください。