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Yutaka Kikutake Galleryにて、本山ゆかりによる個展「この世、受け皿」が3月18日(金)から4月16日(土)まで開催されます。
Yutaka Kikutake Galleryで2回目の個展となる本展では、作家の最新作品シリーズである「Plate」より数字をモチーフにした作品を発表予定です。
本山ゆかりは近年、透明のアクリル版に地と図を同時に描き反転させた画面を作品として提示する「画用紙」、複数の異なる色の布をつなぎ合わせて支持体とし、そこに静物をキルティングの手法を用いて刺繍した上で布のシワやヨレも含めて提示する「Ghost in the Cloth」という2つのシリーズに集中的に取り組んできました。そこでは、絵画や鑑賞行為に関わる諸要素を分解したり再構築したりする作家の手付きを見て取ることができました。
本展で発表される最新シリーズ「Plate」は、木目を残した支持体に数字が彫刻された作品です。数字は世界のあらゆる場所で、様々な構造を支える記号として存在していますが、本山は人間の指の数から10進法が導かれたといったように、数字における身体的な背景に関心を持ったと言います。それは以下のステートメントからもうかがい知ることができるでしょう。
「ポケットをたたくとビスケットはふたつ」*という歌詞を聴いたとき、私はビスケットが割れていく様子を思い浮かべた。「たたいてみるたびビスケットはふえる」*叩かれ、半分になり、それがまた半分になり、粉々になっていく。そこでは、かけら達がそれぞれに「ビスケット」である。最初の「ひとつ」の形でなくとも、それらはビスケットであり、ひとつふたつと数えることが出来るのである。
*『ふしぎなポケット』作詞 : まど・みちお
本山ゆかり
本展のタイトル「この世、受け皿」は、私たちは生きている世界において、物事をそのまま直接的に感受することは極めて難しく、五感を通じた記号化を経て体験し記憶に留めているという、人間のある種の宿命から導かれています。しかし一方では、木目と数字の交錯が記号としての数字を有機的なものとして再提示し、鑑賞者の視覚にフィジカルに訴えかけてくる本展出展作のように、作家は記号との私たちとの関わりに作家は問いを差し挟むようでもあります。
本山ゆかりのこれまでの作品は、美術史、絵画の構造、日常の存在物を記号化し、再提示する試みとして認識することも可能ですが、本作品シリーズも含めて一貫しているのは、記号化の過程において、記号の主要素である均質さや流通・交換可能性を出来る限り排除しながら、人の手の生々しさを伝え、不定形なものへと変換していくことを試みているということもできるでしょう。そこからは、記号を情報として圧縮するのではなく、広がり、ほつれていくものへと変換していく手続きの所作を垣間見ることができるのです。
なお、同「Plate」シリーズからの最新作は、3月11日から30日まで上野の森美術館で開催中の「VOCA展 2022」でもご覧いただけます。