イベント紹介Event Information
彦坂尚嘉は1946年東京生まれ、「フロア・イベント」は、ラテックスを床に撒く行為を主題として、70年に始まりました。自室の畳や家具を移送して行う「デリバリー・イベント」や、「シーリング・ミュージック」「カーペット・ミュージック」など他の要素やイベントと複合し、また案内状やインストラクションなどの紙の作品も含めて変奏を繰り返し、1975年パリ青年ビエンナーレでの展示を7番目として、帰国後日本の税関に畳を没収焼却されるまでをファースト サイクルとして続けられました。
70年と71年の「フロア・イベント (No.1, No.2)」のあと、72年2月に、彦坂は自宅から畳と家具類を梱包して京都のギャラリー16に運び「フロアイベントNo.3」を開催します。梱包された家具類と4トン半のトラックには赤字でREVOLUTIONと記し東京から京都までの500kmを移送し、展示に合わせてギャラリーの壁を撤去。ギャラリー空間を自室へと変貌させ、その場で床にラテックスを撒く行為を行い、ラテックスが乾いていく過程をそのまま展示し、最終的には皮膜となったラテックスを剥がし、ギャラリーを原状復帰し、すべての畳と家財道具を再度梱包して東京に帰るという試みでした。
東京に戻った彦坂は、72年5月、パフォーマンスの場を再び世田谷の自宅に移し「シーリング・ミュージックNo.1」を行います。両親に黙って、天井の杉板を天井裏からゲリラ的に叩き割り、床に散乱した木片を掃除して畳にラテックスを撒きます。行為の後には、床に渡り板を渡してまだ乾かないラテックスの上を歩けるようにしました。
同年6月には、東京銀座のルナミ画廊にて行われた大音楽会「ホワイト・アンソロジー」に参加し、パフォーマンス「カーペット ミュージック ? ミルク クラッシュ」を行います。東京、赤坂見附の刀根康尚のアパートからカーペットを画廊に運び込み床に敷き、プログラムの進行に従って他の参加者の演目の幕間に、暗闇で観客の座っているカーペットを強引にめくり返します。音楽会の最後には残っている観客の周囲からラテックスを撒き、観客はすさまじいアンモニアの臭気に混乱や怒りの中、深夜の路上に逃げ出しました。
こうした作品群は、一般に「パフォーマンス」に分類されますが、当時の彦坂は写真を使った「情報アート」の試みの一環として「フロア・イベント」を繰り返し、写真撮影を作品の不可欠な要素として探求してきました。また、当時の技術的限界の中で、時間の中に生起する作家の行為やラテックスの変化を表現しようと、スライド・ショーを制作していました。
本展では彦坂の1970年から75年に行われた「フロア・イベント」シリーズから、3つの作品(No.3-5)のビンテージ記録写真、スライドショー、およびオリジナルの案内状などを展示し、ニューヨーク在住の美術史家、富井玲子氏の編纂による「フロア・イベント: ファーストサイクル」のクロニクルも発表いたします。彦坂にとってイベントや写真とは何であったか、インストラクション、プラクティス、情報、パフォーマンス、インスタレーションといった70年代以降のグローバルなコンセプチュアリズムを牽引する事象について、またその中における「フロア・イベント」の位置づけなど、さまざまな問いを提起します。ぜひご高覧ください。