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塩竈市杉村惇美術館にて、若手アーティスト支援プログラムVoyageの公募により選考されたビジュアルアーティストの工藤玲那 個展「アンパブリック マザー アンド チャイルド」が2022年7月16日(土)から9月4日(日)まで開催されます。
※同時開催 鈴木史 個展「Miss. Arkadin」
工藤は絵画や陶芸をはじめ、あらゆる表現媒体を介した作品を制作し、各地に滞在しながら活動しています。各地での出会いや個人的な記憶、経験などをもとに柔軟な好奇心から生まれる作品は、自己と他者、ものごとの隙間に生じる言いようのない混沌を探り、固定化された意識や概念を根底から解きほぐそうとする試 みとも言えます。
本展では塩竈に伝わる「母子石」*を題材に、作家自身の母との共同制作を行います。工藤の母・リャンさんは中国出身であり、現在は移動販売を行うなど、料理を生業としてきました。日本人にも馴染む味へと変化していったリャンさんの料理には、文化の違いを超えた味のグラデーションがあったといいます。工藤が最もリャンさんのルーツを感じる「料理」を題材と した共同制作を通じて、家族、ルーツとは何か、普遍的なテーマについて問い直します。
*「母子石(ははこいし)」の物語について
多賀城の政庁創建時、人柱を立てて永久の護りにするため、とある家族の父が人柱に選ばれました。母と娘は傍にあった石の上でいつまでも悲しみに暮れ、二人の立っていたその石に足跡が残されました。この物語は「母子石」の物語として今に伝わり、塩竈と多賀城を結ぶ道でこの石を見ることができます。
<関連企画>
ギャラリートーク 鈴木史・工藤玲那
2022年7月16日[土]10時30分 企画展示室
作品解説等、作家によるギャラリートーク。
※要展示観覧料。要予約(定員15名)
※申込みは
こちらから
「リャンさんは行ったり来たり。」
工藤の母・リャンさんの移動販売車が来館し、焼き鳥を焼いて販売するパフォーマンスを行います。
2022/8/20[土]10時~17時
(最終受付16時30分)
このほか、会期中数回予定。予定は変更になる場合があります。
塩竈市杉村惇美術館敷地内駐車場
参加費:1,000円(焼き鳥代、展示観覧込)
申込不要
「来来去去(らいらいちゅーちゅー)」
母子石の背景にある物語に着目し、多賀城の瓦に使われたとされる利府春日地域で採掘した粘土をもちいて、成形したり、壊したりしながら、わたしたちの身の回りでも起こる “わかりあえなさ”を形にしてみます。
※「来来去去(らいらいちゅーちゅー)」とは、行ったり来たりする、何度も繰り返すという意味。
2022年6月12日(日)13時~15時(2時間程度)
講師:工藤玲那(ビジュアルアーティスト)
場所:大講堂
参加費:1,000円
中学生以下およびメンバーシップ会員 500円
対象:どたなでも ※小学生以下は保護者同伴
<申込み受付を終了しました>
※ワークショップ内では成形のみ。制作した作品は焼成後、後日お渡し
※現在、メンバーシップ会員でない方でも、ワークショップ参加と同時に会員のお申込みもできます。
主催:塩竈市杉村惇美術館
協力:ビルド・フルーガス
■特別審査員による講評 ※五十音順、敬称略
工藤は中国上海出身で日本に渡り、料理店を営んできた母との共同制作を構想します。国境を渡って宮城という土地で生活し、現在は移動販売車で焼き鳥を販売しているという母との共同作業。意外な伏線は、母と子の悲しくも美しい伝説を秘めた塩竈の史跡「母子石」への参照です。実は母子石は、塩竈市だけでなく、中国など東アジア全域に広がる普遍性を持つことから、神話学的な興奮を覚えました。母子神話を秘めた「母子石」のリサーチから陶の立体作品を制作し、さらに母に料理を作ってもらい盛り付ける過程を映像作品として展示するという魅力的な重層性。不動の史跡や陶作品に対して、映像や移動販売車を持ってくるという発想も新鮮です。国境や民族を超え、国籍と料理、制作と生活を和解させて、食べること、つくること、生きることの実践へと向かう姿勢。そこから生まれる成果は、鑑賞者に大きな刺激を与えてくれるでしょう。
石倉敏明(人類学者・秋田公立美術大学大学院准教授)
工藤の応募プランは、塩竈市杉村惇美術館のギャラリー空間の特性を生かした、地に足の着いた内容であった。これまで培ったものを作品展示として見せるという堅実な提案に加えて、じつに魅力的であったのが、パフォーマンスのプランである。ここでの工藤の提案は、他国にルーツを持つ母親との共同作業を通じ、来場者に「振る舞い」を行うというもの。参照されたのは、塩竈市に伝わる「母子石」伝説だ。総じて工藤のプランは、過去を陳列する閉じた箱としての美術館を、自らとその家族を含めた様々な人の交差点として読みかえ、見通しの立たない「これから」を他者とともに分かち合おうとする提案であると私は理解した。作家自身の新たな展開が期待できると同時に、塩竈の人々の交流の場としても機能する杉村惇美術館の可能性をよりいっそう引き出せるのではないかと捉え、評価した。
小田原のどか(彫刻家・評論家・出版社代表)
塩竈と多賀城をむすぶ坂の登り口にある、壮絶な家族の物語を宿した「母子石」のリサーチをベースにしながら自身のルーツを問う意欲的なプランだ。工藤自身が遭遇した家族の大きな変化をきっかけに、大陸にまでつながる壮大な視点と、母と子という最小単位の関係性が複雑に絡み合う展覧会場がすぐに想像できた。また、器物と食という人間の生において普遍的なモチーフを扱うことによって、錯綜したルーツによってチャンポン化した私たちの帰属意識を問うような批評精神も同時に感じた。結果的に母と子の共同制作とならざるを得ないこのプランを通して何が出てくるのか?早くその空間が見たい。
三瀬夏之介(日本画家・東北芸術工科大学教授)