イベント紹介Event Information
タカ・イシイギャラリーは、7月3日(土)から31日(土)まで、川原直人の個展が開催されます。
タカ・イシイギャラリーでの6年ぶり7度目の個展となる本展では、新作絵画4点を展示致します。
川原は、身近にある人物や風景などの写真や映画の場面を忠実に再現した写実絵画を制作してきました。近年では、デューラー、バルテュス、クラナッハ、ドガ、ムンク、ボナール、ピーテル・クラースなどによる古典的作品よりイメージを引用し、モデルを変えて場面を再想定(リ・エンビジョニング)した絵画作品を制作し、それら「再想定絵画」の中で、「Old-masterの主題をくり返し使用することにより既視感を導きだしつつ、現代にも通用するイメージの元型について考える」というテーマを追求し、それを観る者に提示してきました。
本展で発表する作品ではルシアン・フロイド(1922-2011)の作品を引用していますが、これまで古典から近代の画家を中心に作品を引用してきた作家にとって、20世紀に活躍し、自身と同時代を生きた作家の作品を引用することは初の試みとなります。「フロイド特有の暴力的なほどの描写」と、部分的に描かれる「繊細な描写」の相反する要素によって生まれるアンバランスさと調和、そしてそこから「発見される美」について、再考察することを本展の主題としています。
本展の展覧会タイトル「ヒュプノス」は、古代ギリシア神話に登場する眠りの神の名前に由来します。古代において睡眠は「生」よりもむしろ「死」に近く、仮死状態と見做す考えが一般的でした。ヒュプノスが、死の神タナトスと双子の兄弟神であり、夢を意味するオネイロスのほか、死を意味するモロスらの神々と兄弟とされていたこともこのことが通底しています。しかしながら、川原は「眠り」こそ「生」の根源に属すると考え、静かに心身を癒し生気を満たす行為として、神秘性と生命力が混在する静謐な「眠り」という営みを綿密な筆致で描き出します。
本展で発表される「Benefits Supervisor Sleeping」を始めとして、ヌードは川原の作品で最も多く描かれている題材ですが、「もっともシンプルで、ちょっとした陰影やポージングによる筋肉の変化で表情がガラリと変わるのが興味深い」と川原は述べています。情緒性を一切排して人間の身体を物体として観察することで、さらに表現の可能性を探ります。