イベント紹介Event Information
3月に予定していた本展は、新型コロナ感染拡大のため延期になっていましたが、このたび改めて開催する運びとなりました。
コロナ禍の先行きはまったく見えず、誰しも困難な時を生きていかなければなりません。
私自身は、降り積もったマイナスの心情を吐露するように作品を発表し(2017-2018)、その後は少し光が見えてきたように感じてもいたのですが、この状況においてまたもや闇のなかに後退していくような焦燥を覚えています。
ここで改めて「青い断片」から「青い闇」を振り返る機会をいただけることは、私にとって自分自身と深く向き合える貴重な機会です。
この混沌のなかで感じたことが、今後どのように作品に反映されるのか、その先を見つめていこうと思います。
作品を見てくださった方々の感想をうかがうと、絶望や死、悲しみ、あるいは希望の光、強靱な生など、さまざまな受け止め方をされています。それぞれの方の背景や抱えているもの、そのときの心情によって、全く違う印象をもたれるのかもしれません。
まだまだ先の見えない日々が続きますが、このひととき「青い闇」に浸り、漂うことで、何かを感じ取っていただけたら幸いです。
小谷泰子
「青い闇」には、現実を痛切に生きる人の苦行と共に、この世から抜け出てゆく人間の軌跡もまた、最も物質的な抽象の色である青を通し鮮やかに写しだされている。
伊藤俊治(美術史家・東京藝術大学教授)
小谷泰子の自写像との出会いは25年前の震災からである。「兵庫アートウィーク・イン東京地震のあと生まれた芸術」(1997:新宿パークタワーギャラリー)をプロデュースし、「現代美術作家選抜展 —潮風・アート」を同年、海文堂ギャラリーで開催した。その後も「震災と表現」に関連して小谷作品と出会ってきた。
画家にとって自画像は、自身に向き合うという行為において、日常のなかのクレバスに落ち込むような体験であり大切なジャンルだ。小谷の「自写像」は自身の裸像を自撮りし、体験してきたあらゆる思考や感情が複雑にからみあいながら、生きることの生々しさが静謐な世界に沈積していく。
「青の断片」から長い沈黙をへた今回の「青い闇」へ。刊行された「Blue Darkness Yasuko Kotani」(赤々舎)を繰り返し見ながら、断絶が伝える雄弁さにも圧倒される思いがした。
パンデミックの危機にある今、小谷の無限、無明の宇宙に身を晒すという表現は、阪神大震災が露わにした亀裂を、さらに全ての人々が、自ら深淵を覗き込んでいることを受け止める。
島田誠