イベント紹介Event Information
ANOMALYでは2020年10月24日(土)から11月21日(土)まで、小西紀行(こにし・としゆき)の個展「内なる基準」を開催いたします。
小西紀行(b.1980)は、自身の家族や身近な知人たちの集合写真やスナップなどプライベートな記録写真を参照しながら、大胆で伸びやかなストロークで細部を大胆に削ぎ落とす特徴的な表現方法で人(ヒト)を描き続けています。
心理学者だった祖父との対話を通じて、幼少期から人間の判断基準や行動について考えをめぐらせていた小西は、人間という種をどこか客観的に捉える視点を早くから獲得し、「描く」という行為を通じて思考を深めてきました。
小西が筆、タオル、手指などを用いてキャンバスに描く人体は、記号的かつ多角的です。絵の具を擦りつけ、拭い取るといった身体的な痕跡を伴って描かれる大きくうねるようなストロークにより、空間と身体のバランスは歪められ、絡み合い、入念な思考を繰り返した跡が見て取れます。
一方で、滑らかなコート紙に油彩で描かれる紙作品や木炭による素描は、筆致が支持体にダイレクトに伝わる様を実感でき、「絵画的なるもの」との格闘がない分、虚構性を孕んだナラティヴを空間の中に自由に呼び込むことができるため、抽象度の高いキャンバス作品と対峙する際の導入となり、観客の想像力の幅を押し広げる補完的な役割を果たしています。
小西は、自身の絵画は「現実と寓話の間(あわい)を描いている」と言います。記憶をもとに、ディストーションがかかった痕跡的なものとして描かれる人体は、外界へと開かれ、交感し、その身体と意識が拡張していく瞬間が描かれているかのようです。
突発的な自然の猛威やウイルスの蔓延などにより、これからもずっと続いていくと思われた日常が、いとも簡単に崩壊する様を目の当たりにした現在のわたしたちは、人工的につくられた環境と、それを脅かし壊しかねない自然とのせめぎあいのなかに生きていることにあらためて気づかされました。
小西は、このような変化が世界と身体の関係にいかに影響を及ぼしているかということに極めて意識的かつ敏感に反応し、過剰なイメージが氾濫する情報過多なソーシャルメディアから解放されたキャンバスという空間に、脆さや定まらなさの感覚とともに生きざるを得なくなった変容する人間の意識や身体を如実に描き出すことで、「いま起きていること」を抽象化し、わたしたちに未来への思考を促します。
僕は人間の行動や判断に興味がある。
なにか知っているはずなのに測れないものを描こうとしている。
物理的な法則の中で止めどなく矛盾し続ける思考と身体がひたすらに絡まりあい、
懐かしい風景が更新されていく時、なにか腑に落ちる瞬間がある。
小西紀行
本展では小西の新作ペインティング約20点と紙作品約20点を展示いたします。
ぜひご高覧下さい。