イベント紹介Event Information
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WAITINGROOM(東京)にて、小林健太の新作個展「トーキョーデブリス」が2022年4月2日(土)から5月1日(日)まで、開催されます。
小林健太は、自身で撮影した写真をデジタル加工により大きく変化させた色鮮やかな写真作品シリーズで知られています。当ギャラリーで初の個展となる本展では、「都市に住う人間の記憶のカケラ」をイメージの断片として、「破片(デブリ)」をモチーフとした表現で新作に昇華させます。壊れた鏡の破片の形状をアクリルミラーで再構成した立体作品、破片の形状をアクリルマウントされた写真に反映させ、複数の破片を組み合わせたレリーフ状の新シリーズ、壊れた鏡に都市風景が映り込むCGで制作されたイメージを円形のアクリルマウントにした写真作品、そして自身初のNFT作品など、写真を軸に様々な素材へと表現を拡張させた新作群を、巨大なグラフィックを床面に敷いたギャラリー空間全体に展示いたします。
アーティスト・ステートメント
トーキョーデブリス
“スクランブルスクエアの屋上から東京を眺めたら、無数の細かい破片が夕日に照らされてチカチカ光っていた。当てもなく上に伸びていくコンクリートのビルの間に、俺たちがしぶとく生きているのが見えた。トーキョーはデブリだらけ。再開発、SNS、イメージの氾濫、ノイローゼ、データ至上主義、NFT……。情熱の籠らない虚な瞳はスマホのディスプレイを繰り返し追ってみる。抑圧された生がマスク越しの告白が、バラバラに成ったトーキョーデブリスの合間に閃いている。身を翻して飛んでいく名も無き鳥に憧れ、四つ脚で地を駆る獣たちを羨むのなら、俺たちもこの血を燃やせばいい。拝金主義と中途半端な優しさに身を染めた屍を踏みしめて、恋をして酒を飲み汚れ踊ったらいい。情緒の手綱を一度手放せばもう二度と元には戻らない。それが君が見ている大人たちの姿で、鏡に写った俺自身そんな大人の顔をしていた。だからもう屍になった自分を燃やしてしまいたい。トーキョーデブリスを舞台装置に、乱反射するLEDの光と太陽の輝きを照明にして、科学技術と情緒の縺れ合いで戯曲を描こう。ミラーワールドから零れ落ちたこの現実世界の煌めきを君と分かち合って生きたい。”
小林健太
無数の視線の断片が築く都市・東京
視覚的に大きなインパクトを持つ小林健太の作品は、どんな素材が用いられていても、「写真とは何か」という非常に根源的な問いから出発しています。「光で描く」という本来の語源通りではなく「真」を「写す」ものと日本語に訳された写真という表現方法に軸足を置きながら、「真(まこと)」とは何か、それを「写す」とはどういうことかを問い続けています。3月に開催された「アートフェア東京2022」で初めて発表した、壊れた鏡の破片をアクリルミラーを用いて再構成した立体作品『Broken Mirror』は、「現実を映し出す」写真的行為を写真を使わずに表現できないかと模索した際に鏡を用いて、映り込む周囲の環境を乱反射させることを着想したといいます。
ウェブやSNSが当たり前のものとなった現在、それらに続く巨大デジタルプラットフォームとして、AR(拡張現実)技術に支えられた「ミラーワールド」が誕生しつつあると言われています。ウェブは情報を、SNSは人々のコミュニケーションのデジタル化を加速させ、「ミラーワールド」はそれ以外の全てのものを、現実と対になるようにデジタル化するというもので、今はまだ並行しているように感じられる現実世界と仮想世界が融合する未来がそう遠くないことを予感させます。現実世界を無数の視点から精巧にスキャンすることで出来上がる「ミラーワールド」は、断片的な無数の写真の集積に支えられたものになるでしょう。
開発が進む東京を、小林は「デブリだらけ」と表現し、ミラーワールドからこぼれ落ちるであろう「記憶」「情緒」「身体性」を写真というメディアで捉えることに挑みます。都市の風景は様々なものが同時多発的に混在することで形作られており、私たちはその現実の断片を、誰かが撮った写真によって認識しているに過ぎないのかもしれません。色彩や形状が大きく変容した小林健太の写真の中に既知の東京の風景の断片を見つけた時、「美しい」と感じる自身の美的感覚こそが、今この現実を生きているという実感なのではないでしょうか。そして同時に加速するこの世界において、イメージと現実を切り離すことが困難であることも、強く認識させれられます。東京の断片を写し出したデブリの集積を、多様な素材を用いて拡張する写真表現をみせる小林健太の新作群に、ぜひご期待ください。