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MAHO KUBOTA GALLERYにてロンドンと東京郊外の2拠点で制作し、国際的に作品を発表している宮崎啓太の個展「そのことの相対性」が2022年4月19日(火)から5月28日(土)まで開催されます。
ロンドンと東京。二つの大都市圏に制作拠点を構え制作する宮崎啓太の彫刻は、古い自動車の排気系部品を組み上げた構造体に紙やフェルトなどの柔らかい素材を組み合わせて構成されています。作品を前にした時まず目を奪われるのは作品の骨組みとなる自動車部品の流麗な重厚感です。スクラップとなった自動車のパーツを主素材とした彫刻作品といえば、すでに1950年代から60年代にかけセザールやチェンバレンが提示した表現に代表されるようにことさら新しいものではありません。既製の大量生産品をアートとして提示するレディメイドというアプローチを別として宮崎の作品にこの二人のアーティストの影響を見つけることが難しい一方で、宮崎の作品はセザールらとほぼ同世代のイギリスの現代彫刻を代表するアンソニー・カロ、そしてその後の世代であるリチャード・ディーコンと明らかな接続を見せています。
カロ以降のイギリスの抽象彫刻は重量やボリュームのある金属や木材を用いながら、オブジェクトとしての彫刻の宿命的な静的状態をすり抜けるように流麗に解放する詩的言語を特徴としています。そこには英語でいうところの”playful”、すなわち遊び戯れるように要素を組み合わせて展開する自由さがあり、即興の音楽にも似たポエティックな彫刻的リズムが生み出されています。ロンドンのRoyal College of Artの修士課程で彫刻を学んだ宮崎の表現の根底には、無用の廃棄物の中に「美」を発見し、それらを自らのルールによって組み上げることによって生み出されてゆく豊かな彫刻的ナラティブが感じられ、その豊かさの源は革新的なイギリス現代彫刻の先人たちの数々の実践の果実にあります。宮崎はそのギフトを確かに受け取り、自らの閃きとオブジェクトを創る手の感覚を重ね合わせさらなる実践を繰り返してゆきました。
かくして宮崎の作品は日本の現在の彫刻に見られるいかなる傾向ともかけ離れたところで成熟し発展してゆくこととなりました。古い自動車パーツのもつ美しさ。それを組み上げることにより生まれるムーブメント。空気抵抗を少なくし、コンパクトに必要なものだけを結集させた資本主義の形には効率性の美があり、それらが宮崎がゼロから作りあげる造形、すなわちフェルトや紙による柔らかでカラフルな造形要素を纏う時、一旦は用途を失い廃棄された工業製品の部品に生命の息吹が宿ります。かつて排気パーツを巡っていたエネルギーは今や人の手による造形によって視覚化される音楽を奏で始めます。その彫刻の成り立ちに、大量消費への批判や、失われつつある既存の自動車という概念を批評的に重ね合わせることは可能でしょう。しかし先述したようにセザールやチェンバレンらの作品と異なる立ち位置で宮崎自身が作り上げたハイブリッドな彫刻的言語を前にして、過去の議論を繰り返すことをここではしません。ただひたすらに動的であることを目指すのみの、時代と共振する生命体のようなオブジェクトがそこにあります。
「そのことの相対性」と題された今回の個展では、ギャラリーの壁を覆うタブロー的な広がりを見せる大作と、カラフルな造形要素を組み合わせた自立式の作品、ならびに小品2点の4点の新作が展示される予定です。いずれも宮崎の作品の特徴である古い自動車の部品に紙やフェルトの造形物を組み合わせて展開される重厚感と優雅さが共存する作品となっております。