イベント紹介Event Information
ユカ・ツルノ・ギャラリーは、中村佑子と松川朋奈の二人展「My River runs to thee それでも私の川は、あなたへと流れている」を2021年3月6日(土)から4月3日(土)まで開催いたします。両者とも近年は、母になった体験のなかで生まれた気づきや感性をインタビューや取材を通して探求し、中村は文章と映像で、松川は絵画として発表してきました。本展では、形を変えながらも脈々と受け継がれていく「母」を出発点に共鳴し合う二人の作品を展示します。
ドキュメンタリーを多く手掛けてきた映画監督である中村佑子は、2020年末に出版した初の単著『マザリング 現代の母なる場所』で、自身の妊娠から出産、そして産後の子どもと共有する時間のなかで抱いた空白や虚無、孤独といった自身が乖離した感覚とともに、赤ちゃんと自他未分化した言語化できない「母」に関わる体験を語るための言葉を見つけようとします。多くの女性への取材を手がかりに、また自身が持つ記憶や母との関係を重ね合わせながら、中村は「母」に代わる言葉として、「マザリング」を使います。それは「自分や他者の痛みに敏感になり、いつ終わるともしれない計画できない時間を待ちながら過ごすという、文明が退化させてしまった他者に寄り添う感覚を取り戻すプロセス」*であり、生の起源が稀薄化された現代社会に抗うような身体感覚や時間感覚を持つ「母なる場所」の可能性へと開かれています。
そこから、自身と共通の境遇を持つ人々との類似した記憶を元にした「病の親を持つ子どもたち」をテーマに、初のAR映像作品《サスペンデッド》をシアターコモンズ’21で発表しました。家のなかに最も身近な人の病や死を抱え込んだときの宙吊りの「生」とともに、その日常に現れる圧倒的な光や時間の感覚が子どもの視点から描かれています。本展タイトル「My River runs to thee それでも私の川は、あなたへと流れている」は本作品で引用されている、エミリー・ディキンソンの詩からきています。本展で中村は、《サスペンデッド》の一部映像と、「マザリング」を探求するにあたってその内面的な心象風景として立ち現れるような、本展の為に撮り下ろした初の写真作品を発表します。
クロースアップした写実的な絵画で人間の内面へとアプローチする松川は、中村と同様に、同世代や自身と同じ状況を持つ女性へのインタビューを重ねてきました。そのなかで印象に残ったフレーズやシーンを、私的な事象を想起させる細部としてハイライトを当てながら再構成し、日常生活に残された行為の痕跡や仕草に表れる人間の内面や葛藤を表現しています。近年は、自身が年齢を重ねるにつれて取材対象であった同世代の「若い女性」たちが「妻」や「母」へと変化したり、「老い」を身近に感じるようになったり、女性たちが抱える不安や悲しみ、疲れ、弱さといった多様で複雑な内面の一つ一つを肯定しながら、母親と子どもの主題を多く描くようになりました。シリーズ作品《Love Yourself》(2018-)は、自身も含め、親として生きる女性が直面する重圧や社会的な偏見に押し潰されずに自身を愛する営みを思索するとともに、その願いが込められています。本展では中村の著書の表紙に使われた作品《Love Yourself 3》(2018年)とともに、「マザリング」や中村の映像作品からイメージの着想を得て制作された新作を発表します。
3月27日(土)には二人のトークイベント(Zoom生配信、アーカイブ有)の開催を予定しております。
中村佑子 x 松川朋奈アーティストトーク
日時:3月27日(土)16:00-17:00
視聴方法:予約不要・下記リンクよりご視聴ください。
https://www.youtube.com/watch?v=ctMGF5Pc740
*配信後同リンクにてアーカイブ視聴も出来ますが、作家に直接質問のある方はライブ配信にてご視聴ください。