西2丁目地下歩道映像制作プロジェクトは、さっぽろ地下街オーロラタウンと札幌市民交流プラザをつなぐ “西2丁目地下歩道” を舞台にした映像のプロジェクトです。4面プロジェクションからなる横長の特殊スクリーンと、歩行空間としての特殊性を活かし、多様で実験的な映像表現を模索していきます。
2018年よりはじまった本プロジェクトは、2018年度にはスタジオロッカ、2019年度には大木裕之氏、野口里佳氏、そして2020年度にはアピチャッポン・ウィーラセタクン氏に委嘱し、それぞれ新作を制作しています。
どの作品も、この場所のために制作されたものです。ぜひお楽しみください。
作品についてのコメント(アピチャッポン・ウィーラセタクン)
アピチャッポン・ウィーラセタクン「憧れの地(The Longing Field)」2020、札幌文化芸術交流センターSCARTS
「憧れの地(英題:The Longing Field)」
ロックダウンの数カ月間、私は友人でもある俳優たちを訪ねたいという強い衝動に駆られた。この特異な期間、俳優らがどうしてるのかを記録してみたかった。東北では、ジェンジラーがアメリカ人の夫のためにマスクを縫っていた。彼女は夫と一緒に暮らし、在宅で介護している。近くの街では、パティパーンが演奏会場を自作していた。彼はタイの伝統的な歌を唄う。南下すると、バンロップが有機野菜の畑を拡張していた。彼の畑は海の近くだ。
最後にバンコクだが、その地ではサクダーだけを訪ねた。彼は街の片隅で暮らす不法入国者に食料を配布している。社会的距離が叫ばれる中、この国では若者の軍事政権に対する反発が、前例がない規模の抗議活動へと発展した。私はバンコクで、その活動を追いかけ、数時間分の素材に撮りためた。街の通りは、不満と希望に満ち溢れていた。そんな若者たちによる熱を帯びた演説とは対照的に、それまで私の2020年は、だいたい自宅で静かにしていた。
木々が新たな葉を茂らせた。飼い犬が病気になり、その治療をした。バナナが熟し、マフィンにした。そんな移ろいの中、私の不眠症は改善していた。快眠できるようになり、長い夢をみるようになった。自分自身が夢で探求している、とも知った。たいてい夢と現実は双方が近づくまで影響しあうのではないか、と思った。吸引とでも呼ぼうか。起きている時、私は近所だけど今までに訪れたことがないような場所まで歩いたり、車で行ってみた。朝には、夢をメモすることもあった。昼には、山々や滝、地元の温泉を撮影したこともあった。
西二丁目地下歩道映像制作プロジェクトを構想する段階で、2001年に初めて札幌に滞在した時に出会った友人たちの写真を見てみた。タイで私が仲間を訪ねた時と同じ感情が、札幌の友達らに対しても広がった。そこで、友情の証として、ビデオレターをつくることにした。それは、私の2020年を伝えるビデオになる。植物、光、季節が移ろう香り、大勢の若者が発する活力、命が消えゆく哀愁、新たな春への動きを、ここに共有したい。
行ったり、来たりと巡りゆくものが、私に感謝の念を与えてくれた。ここに送る光の手紙が、大陸をまたいでも、私の憧れや愛情を共有する一助となることを願ってやまない。
2021年1月29日、チェンマイにて
アピチャッポン・ウィーラセタクン