イベント紹介Event Information
※新型コロナウイルス感染拡大による社会情勢に伴い、美術館およびギャラリー施設において休廊、休館、もしくは会期の変更をしている場合がございます。詳しくは、各施設サイトをご確認いただきますようお願い申し上げます。
Yutaka Kikutake Galleryにて、グループ展「愛と平和をまもるモノ(仮)」が4月23日(土)から5月28日(土)まで開催されます。
Yutaka Kikutake Galleryではこれまで、地に足をつけて時代を駆けぬけていこうという思いとともに、ギャラリーのプログラムを考え、『疾駆』をはじめとする書籍の刊行を行ってきました。コンテンポラリーアートのフィールドを超えて、アーティストたちのイマジネーションが私達の日々の生活にインスピレーションを与えることを大切に考えています。
自らの心の在り様を伝え、他者の姿を感じることが難しくなりつつある今、作品を通して強く自分を表明し続ける作家の作品を展示したいと考えました。自分の心を伝えることは、他者の心を感じることにも繋がるはずです。心という複雑なものを抱えながら、その複雑さを複雑なまま表現している作家の作品から、人それぞれが大切にしている価値観の諸相を感じ取れる場所にしたいと思います。
本展を計画した背景には今年の2月末に生じたウクライナでの戦争がありました。多くの皆さんと同じく心が痛むなかで、今私たちにできることを考え、8名の作家と本展を企画しました。今回本展の作品代金の売上の一部と、本展出展作家でもある奈良美智氏の協力を得て制作するオリジナルのチャリティピンバッジの収益を赤十字等の慈善団体の活動資金へ寄付する予定です。
参加アーティストについて
ドイツで制作を続ける中原正夫さんには、2022年のロシアのウクライナ侵略前後に描かれた新作を出品いただきます。中原さんはデュッセルドルフ美術アカデミー在学時代から私的な思い出を辿り、思い浮かぶ光景を描いています。アカデミー修了後は作家活動を休止したものの、数年前に創作活動を開始しました。中原さんに今回展示している作品へのステイトメントを寄せていただきました。会場で作品とともにご覧いただければ幸いです。
奈良美智さんは制作活動を始めた80年代から反戦、反核、愛、平和への想いを作品に表してきました。それは、社会に向けての訴えではなく、日々の生活の中で育み続けた個人としての希望が自然に絵に溢れ出てくるようなものでした。東日本大震災の数年前バンコクの反核デモ参加者が掲げて以来、奈良さんの《No Nukes》は世界各地のデモのアイコンとして使用され続けています。奈良さんが率直に表す意志は、一人では声を上げられない私たちに勇気を与え、希望を象徴する存在になっています。
セクシャリティや出身地の沖縄をテーマに自分の経験を作品として紡ぎ直すミヤギフトシさんは、いつしか作品に「どれだけ自分から離れた存在に共感を抱けるのか」というテーマを加えたそうです。自分とは違う時間軸や場所に存在する登場人物が「見たであろう風景」や「抱いたであろう想い」を撮り重ねた作品は、優しさや痛みなど普遍的な感情を呼び起こします。本展出展作品に関する書き下ろしのテキストも会場で配布いたします。どうぞご一読ください。
村瀬恭子さんが描く目を閉じた少女は木や葉と共に空気や水の中に浮遊し、まるで作品自体が植物であるかのようです。しかし、村瀬さんが描く世界は常に作者の身体の感覚に基づいていて、柔軟性を持ちながらも生命力に満ちた強い光を放っています。どこか受動的でありながらも、芯を持って絵画と向き合う村瀬さんの作品は今の私たちに光を与えます。
志賀理江子さんは、自身が住まう土地に根ざしたコミュニティ、訪れた地で出会った人々など、いつも人とともに作品を制作しています。社会が複雑さを日々増していくなかで、自身が体験したことや感じたことを他者と共有し、語り合うことを大切にし続けている志賀さんの作品は、視覚情報に偏重しがちな現代社会において、人間の身体やそこから生じる感覚の根源的な鋭さや尊さを伝えてくれます。
小林エリカさんは、幼少期に出会ったアンネ・フランクの「私の今の希望は死んでからもなお生き続けること」という一節の意味を問い続けた末に作家を志しました。自身が不思議だと思う歴史上の出来事の記録を辿り、その地に足を運ぶことを重ねる中で出会った声を「物語」という形で書き記しています。「生きること全てが文学である」という小林さんは「声なき人の声」、「歴史にすくい上げられない人々の声」を自身の個人史とも接続させ、物語として立ち上がらせることを試みています。
第二次世界大戦からの復興を経て日本が高度経済成長期を迎えるなか、日々の暮らしが成熟する一方、未来はいったいどういう姿であるのかが様々な方法で想像、検証されていました。橋爪悠也さんはその頃に描かれたマンガの描写方法やそのストーリーが想像した未来の在り方をベースに、未来が技術的にも以前より見通しやすくなった現代において、果たして誰も想像できないような未来は存在しているのか、あるとしたら、そこにはどのようなストーリーがありえるのかを、涙を湛えた人物像から鑑賞者とともに問うています。
東松照明さん(1930-2012)は15歳で第二次世界大戦の終戦を迎え、それまでの価値観が大きく転換していく様を目の当たりにしました。1950年代半ばから写真家として活動をはじめると、戦後の日本の様々な場所で人々が抱えていた絶望や怒り、喜びや驚きなどを写真に捉えていきました。また、復興を遂げ、新たに生まれてくる文化の姿やその背景にあった日本とアメリカの関係性にも写真家として早くから関心を持ち、多くの作品を発表、後続の写真家たちにも多大な影響を与えました。東松さんの作品は、政治や経済が世界を大きく変えていくなかを生き抜いていかなければならない人々の心の在り様を伝えるものだったといえるでしょう。