イベント紹介Event Information
※新型コロナウイルス感染拡大による社会情勢に伴い、美術館およびギャラリー施設において休廊、休館、もしくは会期の変更をしている場合がございます。詳しくは、各施設サイトをご確認いただきますようお願い申し上げます。
※8月19日より開催を予定しておりました久保寛子「ISAAC」展ですが、
新型コロナウイルス感染症拡大の現況、並びに本展覧会関係者の健康状態と準備状況を考慮し、
誠に残念ではございますが展覧会を延期させていただく運びとなりました。
同展覧会は2022年12月の開催を予定しております。
LOKO GALLERYにて、東京では初となる久保寛子 個展「ISAAC」が8月19日から9月11日までの期間、開催されます。
久保は、広島市立大学芸術学部彫刻学科を卒業後、テキサスクリスチャン大学彫刻専攻美術修士課程を修了。
民俗芸術や先史美術、文化人類学の学説を主なインスピレーションの源に、身近な素材を用いて農耕や偶像等をテーマにした作品制作を行なっています。近年では瀬戸内国際芸術祭2016や六甲ミーツアート2017、さいたま国際芸術祭2020で大型インスタレーション作品を発表し注目を集めています。
アーティストステイトメント
2018年1月私の息子は生まれた。2020年1月日本で新型ウイルスが拡大し始めた。
2022年2月隣国では戦争が始まった。
この数年で自分の人生や社会の様相が大きく変わった。
昨日できなかったことが今日できるような、毎日が可能性に満ちた子供の存在に対して、社会はその逆の方向に進んでいるような気がする。
パンデミック、戦争、気候変動、格差問題、目の前に立ち現れる不安に答えてくれそうな学説(加速主義、脱成長、テクノロジー、ポストヒューマニズム、、)は何一つ未来の明るい展望をみせてはくれない。
『サピエンス全史』の著者のユヴァル・ノア・ハラリは言う。
“We should never underestimate human stupidity.”
どうやら約20万年続いてきたホモサピエンスの時代は終わり始めている。そしてその終わりは想像以上に間近だ。
未来への絶望の淵に立ち、そこから何を見、何をするか?図らずもこの大きな問いに向き合わされた時、自分ができることはやはりこれまでやってきた彫刻=今生きているこの時代を、この時代にある素材で表象することだと思った。なぜならば自分自身が、過去の彫刻たちに感銘を受けてきたし、ヒトとして生まれ生きていく事の神秘を教わったからだ。
私が専ら創作のお手本とするのは、博物館や遺跡に陳列された、art(芸術)以前のartifact(人工物)である。
それらが作られた数千年、数万年前の価値観は今の私には計り知る事ができない。しかしその”もの”が時空を超えて何かを確実に伝えてくることがある。”はじめにロゴス(言葉)ありき”はキリスト教の思想だが、民族芸術学者の青木重信が説く、”はじめにイメージありき”を私は信じている。
彫刻は人間と同じく体積を持ち、同じ物理空間に存在し、同じ物理条件下で風化し壊れていく。その儚さや脆さが彫刻の愛おしいところではあるが、同時に人間の意思の力で(時には偶然)数万年、数十万年間もこの世界に遺ってるという事実が、彫刻というアートフォームの強さも教えてくれるし、私が彫刻を続ける原動力の一つとなっている。
ISAACは、旧約聖書に登場する始祖の名前で欧米ではよく男性、特にユダヤ人のファーストネームに使われる。
英語ではアイザック(Isaac)、ヘブライ語ではイツハク(קחצי)、ギリシャ語ではイサキオス(Ισαάκιος)と発音は様々で日本ではイサクと読まれる。子供の名前を考えているとき、ふと本棚にあった矢内原伊作の本が目に入った。彼は彫刻家ジャコメッティの友人であり哲学者である。イサクという聞きなれない名前に興味を持ち調べたところ、その語源は「彼は笑う」という意味であることを知り、世界中で使われる名前でありながらどこか古い日本語の響きも持つこの名前が気に入り息子の名前「伊朔」とした。
矢内原はジャコメッティとの対話を記した著書でこう述べている。
「芸術の歴史に発展進歩はない。反復停滞もない。衰退低下があるだけである。」(芸術家との対話, 1984)
現在4歳の息子が50年後、はたまた100年後観ている世界にはどのような世界であろうか。
遠い未来にも人間(または人間的な何者か?)に生きる意味を与える良き創作物が遺っていて欲しい。そして自分の生がその一助となれば幸いだ。ホモサピエンスの先人たちが世界に遺した偉大なイメージの数々のように自身の創作物が人類のマスターピースとなることを願って。
2022
久保寛子