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MISA SHIN GALLERYにて、崔在銀による個展「The Oldest Story of Today …」が4月8日(金)から5月28日(土)まで開催されます。
「The Oldest Story of Today は崔在銀の世界観を圧縮したものと言える。災難と戦争の時間を生きているわたしたちの今日を、今日以外に何と呼ぶのだろうか?今日はただ私たちに与えられているものであり、それと同時に永遠に到来するものでもある。それは塩のように生々しく、吹き散らされる灰のように何も残さない。この『今日』は皆の記憶の中に刻まれるだろう。」
——ジンサン・ユウのテキストから
生命の循環や時間をテーマに制作を続けている崔の新作インスタレーションは、塩と灰、そして鹿、それらの上を流れる空の写真作品、小さな雫の落ちる音で構成され、太古から続く時間と生命の無限の廻転からなる物語を、叙事詩的な構成で静かに浮かび上がらせます。
床に小高く積み上げられた塩の一部は灰に覆われ、金色の脚を持つ鹿の彫刻が一頭配置されています。人間が生きていく上で欠かせない塩は、古代文明では金と同等に取引され、塩の権利争いや塩税は戦争や革命の引き金となってきました。塩の歴史は人類の歴史でもあり、さらに日本では盛り塩やお清めなど宗教的な風習にも用いられます。一方、その塩の上に撒かれた灰は、炎によって崩壊し、再び戻ることなく保存もされない幾多の犠牲に対する、失われた記憶を呼び起こします。
日本をはじめとする世界各地の神話に登場する鹿は、神的存在としてまた霊的な媒介者として描かれますが、ギリシャ神話では神の存在を盗み見た罰として鹿に変えられたアクタイオーンが知られています。金色に染まった脚は、見てはならないものを見た罪で罰を受けた犠牲者として、その原罪的な視線を通じて姿を現した、世界と自然の秘密を象徴しています。
崔は2011年4月にイタリアプーリア州にある、海辺のオリーブ園で1日24時間、1分に1カットずつ、計1440カットの空の写真を撮影する Puglia Sky Projectを行いました。本インスタレーションではそのプロジェクトから、日没と夜明けにそれぞれ9分間に渡り刻々と変化していく空を撮影した計18枚の写真が並びます。東西を海で囲まれ、多くの民族や権力者から支配されてきた長い歴史を持つプーリア州の村において撮影された一連の写真は、宇宙の変わらぬサイクルとその下で異なる時を生きる我々の時間が対比されるのです。
宇宙の時間軸の中で、刹那に過ぎない生きとし生けるものの時間の循環と共有を独自の言葉で提示する本インスタレーションは、人間の辿ってきた道、現在の社会や世界の状況など様々なことに思いを巡らせるきっかけになるのではないでしょうか。
MISA SHIN GALLERYで2017年以来となる崔在銀の個展、ぜひご期待ください。