イベント紹介Event Information
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MAHO KUBOTA GALLERYにて、富田直樹の個展「ラストシーン」が、3月2日(水) から4月2日(土)まで開催されます。
富田直樹はフィクションは描けないと言う。いや、敢えて描かないのだと想像する。作品の殆どはアーティスト自身が撮影した写真をもとに忠実に描かれており、厚塗りに重ねられた油絵具の筆致によって変化はつけてあるものの抽象性には遠く、その成り立ちは多分に写真的である。絵画としての彼の作品の引力はなんだろうか。小磯良平や川瀬巴水に影響を受けているという本人の言葉を真に受けるとすれば、その油絵は実直にあるがままを捉えるアプローチによって制作されているように感じられる。現代のリアリズムというべきその手法が日本の現代アーティストによる具象絵画に見られるいくつかの傾向のいずれにも属していないことにより、富田の作品は際立った印象を与えている。
「ラストシーン」と題された今回の新作展では、ひとつの画面に複数の人物の姿を捉えたペインティングが新しい。バイクに相乗りしていたり、カラオケのマイクを握っていたり、居酒屋の駐車場に集っているモチーフには注目すべき特徴等はなく、どこにでもいそうな若者の姿である。そこに彼らのコミュニティの中での緩やかな関係性は感じ取れるものの、強い絆や決定的瞬間といったモニュメンタルであったりシンボリックな感覚はなく、あくまでもそれらは日常の中のワンシーンのように感じられる。アンチクライマックスの連続である日々のリアリティがそこに描かれている。
日本のコンテンポラリーアートの絵画の現在にほとんど見られないこのリアリティの丁寧な掬いとりが、海外のペインターの作品群に目を転じると同時代的に発生しているトレンドのひとつと考えられるという事実が興味深い。例えばアフリカ系コミュニティの名も無い生活者の日常の姿や、社会の(そして特に女性の、)エッセンシャルワーカーの姿を描いた現代におけるソーシャルリアリズム絵画は、とくにここ2、3年大きなトレンドの一つとなっている。あるいは、ソーシャルリアリズム絵画の復権の潮流を富田の作品はすでに数年前から予見していたのではないだろうか。
本展では複数の人物像を配置することによって描かれる現代の無名のコミュニティの緩やかな空気感と並行して富田の代名詞でもある、見る人の心の中に「微かな痛みを伴う」エモーショナルな感覚を呼び起こす「情景の絵画」が展示される。