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児玉画廊にて、佐藤慧の個展「Providence」が1月22日(土)より2月26日(土)まで開催されます。
二つのものの間にある絵画ー佐藤慧「Providence」に寄せて
菅原伸也(美術批評・理論)
佐藤慧の作品は、グリッド状であったり縦と横の線で分節されていたりするように、基本的に垂直と水平のみで構成されたシンプルな構図に基づいている。しかし、作品から遠く距離を取ってそうした全体の構図を眺め、そこにモダニスティックな幾何学抽象を確認だけではその作品の豊かさを堪能し得ない。もっと画面に近寄り仔細に見つめてみるならば、佐藤の絵画は、そうした均質的な抽象に還元されない、異質な二つの要素によるさまざまな対立から成り立っていることが分かるであろう。
まず垂直と水平という二つの構成要素の対立は一見して明白であるが、さらに重要なものとしては、灰色にくすんだ白い色面と、その白い色面をさまざまなやり方で分節して構図を形づくる黒い面との対立がある。ここで佐藤の制作工程について簡単に説明すれば、最初に全体の構図を決定し、黒い面に当たる部分は窪んだ溝となるようにしてパネルを形づくる。白い色面となる箇所には、まず寒冷紗を張り込んでからジェッソを塗り、その上に墨や岩絵具、胡粉といった日本画材を振り撒いて、さらに再びジェッソをそこに薄く重ねる。そのようにして再度白くなった色面に電動ヤスリを掛けて表面を削り、下にある墨や岩絵具、胡粉の層を部分的に露出させることで絵画表面に見える不定形な模様が現れるのである。それに対して黒い面は、パネルにつくられた凹んだ面に、黒く染めたレジンという樹脂を流し込んで固めることで出来たものである。
したがって、これら二つの要素は全く異なる質感を有している。作品に近づいて見るならば、黒い面は液体のようにみずみずしい姿を現わし、あたかも水鏡であるかのように鑑賞者や周りの風景を黒く反射しているのを認めることができるだろう。それに対して、白い色面では、ヤスリ掛けによって露出した墨や岩絵具が描き出す表面の模様に鑑賞者の注意が引きつけられることとなる。そのようにして、黒い面は鑑賞者や展示空間といった絵画の手前の空間を映し出しつつ、水溜りのような浅い奥行きを感じさせる一方、白い色面では、模様が現れている表層が強調されるといったかたちで、佐藤の作品は相異なる両者をともに認識するよう迫ってくるのである。加えて、佐藤の作品は、墨や岩絵具、胡粉のように日本画において通常使用される画材と、ジェッソや樹脂のように日本画で用いられることがほぼない材料という二要素からも成り立っており、伝統的な日本画というカテゴリーにすんなりと収まらない。
ここで重要なのは、佐藤の作品では、二要素のうち片方が支配的であったりどちらかに還元されてしまったりするのではなく、両者が等価なかたちで共存しているということである。佐藤の絵画を見るという体験は、二つの要素のどちらかのみに集中するのではなく、二つのあいだで揺れ動き、それらの対立のあいだに引き裂かれる感覚を味わうことなのである。