イベント紹介Event Information
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金沢21世紀美術館にて、冨安由真「アペルト15」が10月30日(土)から2022年3月21日(月・祝)までの期間中、開催されます。
注目作家冨安由真が手掛ける新作インスタレーション
作家が見た夢の世界を再現した、新しい知覚体験を誘う空間
冨安由真(1983-)は、心霊現象や超常現象、夢の世界などを題材に、現実とも非現実とも判別しがたい空間演出を特徴とする、インスタレーション作品を多く発表しています。見るものの知覚や感覚に揺さぶりをかけるような作品世界は、五感、時に第六感を刺激し、ともすれば忌避されがちな不確かで見えないものへの意識を促し、知覚体験の本質を問います。本展のために制作された新作のインスタレーション作品は、冨安が幼少期に見た夢に構想を得ており、その夢に現れた一軒の小屋を作品の舞台としています。小屋にかけられた絵画《The Pale Horse 蒼ざめた馬》に登場する一頭の馬は、新約聖書のヨハネ黙示録にて「死」を象徴する騎士が乗った蒼ざめた馬に着想を得たものです。展示空間に足を踏み入れた鑑賞者を、現実と虚構とが交錯し合う、奇妙で幻想的な体験へと誘う作品です。近年では従来の表現メディアである絵画とその周囲を含んだ空間の見せ方や手法に、そのダイナミズムを増している注目作家が手がける、体感を重要視して構築された作品世界は、鑑賞者に対し、見えないものを知覚させるような、新しい体験の機会を創出します。
<作家ステイトメント>
何かの境目にあること、不確定で、不鮮明なこと。そういったことに、私たちは不安を覚えます。けれども私たちの世界では、そういった「わからないこと」が本来はたくさんあります。心霊現象や超常現象、あるいは夢の世界といったものも、それにあたります。私たちを不安にさせるそういったよくわからないことを、私たちは排除しながら生きていますが、そういったよくわからないものの中にこそ、大事なことが潜んでいるかも知れないと私は思っています。私は心霊や夢などを題材に、体験型のインスタレーション作品を多く発表しています。視覚だけでなく、五感や、時に第六感を使いながら、観る人が体感し体験することに価値を感じるからです。
今回発表する《The Pale Horse 蒼ざめた馬》という作品は、私の幼少期に見た夢を元にした作品です。ボロボロの小屋、そしてそこに掛かる絵。ただの夢ではありますが、そのイメージは私たちの深層心理の中で、どこか共通して持っている風景であるとも言えます。夢の中で幼い私は、いつの間にか小屋に掛かった絵の中に入り込んでしまいます。自分がいると思っていた世界と虚構の世界の境目がなくなり、足元がぐらつくような経験。そのようなものを表現したいと私は思っています。
「The Pale Horse(蒼ざめた馬)」とは、新約聖書の『ヨハネの黙示録』(第6章第8節)に登場する馬のことです。「死」を意味する騎士が乗っており、黄泉を従えています。小屋の中では、人間にとっては不可聴音である、19Hzの音を流しています。この19Hzという音は、耳では聞くことができないけれど、身体は感知する周波数の音であるために、不安感を誘発する音だと言われています。また、真偽のほどはわかりませんが、俗に「幽霊が見える音」だとも言われています。私の作品を通して、観る人が「境目」を意識し、「わからないこと」に目を向けるきっかけを得てくれれば幸いです。
冨安由真
<展覧会の特徴>
作家が幼少期に見た夢を具現化した、現実と虚構が交錯する展示空間
本展は、冨安が幼少期に見た夢に着想を得ており、その夢に現れた廃墟のような一軒の小屋を、作品の舞台としています。夢の中では、その小屋の壁面に、北米のある風景を背景に描いたポスターが貼られており、その絵を見ているうちにいつしか画中に入り込んでしまった作家は、世界の境界が曖昧になる夢を明瞭に記憶します。本展では、作家が強烈な印象を覚えたかつての夢の空間を再現し、鑑賞者を、現実と虚構の間を浮遊するかのようなあやうく幻想的な体験へ誘います。
黙示録に出現する馬をモチーフとし、
動物でも霊でもない、ものの気配を感じる空間
小屋の中に展示された絵画作品《The Pale Horse 蒼ざめた馬》は、新約聖書の最後に配された『ヨハネの黙示録』(第6章第8節)にて姿を現す、第四の騎士の騎馬「青白い(蒼ざめた)馬」に着想を得ています。黙示録において、第四の騎士は、地上の4分の1を支配する権威を携え、黄泉(よみ)を連れた「死」を象徴します。本展では、この画中の一頭の「蒼ざめた馬」が、不可聴音である19Hzの音とともに、動物でも霊でもない不気味な気配を漂わせ、鑑賞者を静かに出迎えます。
多様なメディアを用い、
絵画世界を空間芸術へ昇華させる作家性に注目
冨安由真は、絵画、インスタレーション、映像などの多様なメディアを用い、現実とも非現実とも判別しがたい不確実で幻想的な空間の創出を、表現の重要なテーマに据えています。ロンドン芸術大学で美術を学び、東京藝術大学大学院で博士号(美術)を取得後、日本を拠点に精力的に活動し、近年では従来の表現メディアである絵画とその周囲を含んだ空間の見せ方や手法に、そのダイナミズムを増しています。視覚だけでなく、五感や第六感的な直感を重要視して構築された作品世界は、鑑賞者に対し、見えないものを知覚させるような、新しい体験の機会を創出します。
<「アペルト」シリーズとは>
「アペルト」は、若手作家を中心に個展形式で紹介する展覧会のシリーズです。金沢21世紀美術館は世界の「現在(いま)」とともに生きる美術館として、今まさに起こりつつある新しい動向に目を向けています。作家とキュレーターが作品発表の機会を共に創出し、未来の創造への橋渡しをします。国籍や表現方法を問わず、これまで美術館での個展や主要なグループ展への参加経験は少ないが、個展開催に十分な制作意欲を持ち、アペルト実施以後のさらなる飛躍が期待できる作家を紹介していくものです。
※「アペルト(aperto)」は、イタリア語で『開くこと』の意味。