イベント紹介Event Information
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KATSUYA SUSUKI GALLERYにて7月24日(土)から8月22日(日)まで、若林菜穂と福濱美志保による二人展「Kinder Wonder Garden」が開催されます。
「おむすびころりん」と『不思議の国のアリス / Alice's Adventures in Wonderland』(L・キャロル / 1865年)には、現世から異界への跳躍に伴い、登場人物やその周辺環境のスケールが変化する、という共通の要素がある。このような現象あるいはギミックに関しては、古今東西の多くの物語はもちろん、他分野の芸術表現においても様々な類型を見出すことができる。
———という話が、今回の2人展の方向性についてのミーティングを若林菜穂・福濱美志保の両名とともに行う中で挙がりました。「スケールの変化」という命題は特に福濱作品において顕著なものです。制作の最初の段階で、白布や建築模型用のイスを用いて手の平サイズのミニチュアを組み、写真に収める。それを静謐な物質性を伴った油彩の筆触でキャンバスに描き起こし、絵の中にしか存在し得ない風景を立ち上げていく。…という工程が現在の彼女の基本的な制作スタイルであり、そこではミニチュアとキャンバスの間に生まれるスケールの差が、絵画固有の世界を切り開くために大きな役割を果たしているからです。
一方の若林作品においてもスケールの変化という要素を見出すことは出来ますが、それ以上に、さまざまな物体が元々在った場所から切り離され、別のエリアと結合される、という「空間の変位」が目に留まることが多いかもしれません。自らの感情や精神と呼応するモチーフたちを日頃から写真に撮り溜め、コラージュ的作業を経て組み合わせていくことによって、若林の画題の多くは生成されています。この過程においては、まずモチーフとの邂逅が作家の内面に突発的な反応を生み、作家は複数のそれらを融合させ絵画へと昇華させていく、という、モチーフと作家の間を往還する相互作用が独自の絵画空間への重要な道筋となっています。
2人の制作プロセスの表面をなぞると、上記のような共通点あるいは相違点を見出すことができます。前者を端的にまとめるならば、私たちが日常的に目にしているフォルムを用いることで鑑賞者にどこか既視感を与えつつも、それらが存在していた元来の座標を一部操作することによって、“絵画” としか謂いようのない視覚を生み出すことを目指している、という点に1つのフォーカスを充てることはできるでしょう。
このような作品の在り方は、いわゆる具象絵画というオーソドックスなカテゴリーに属するものとして捉えることもできるかもしれません。しかし写真やデジタルコラージュといった手法をペダンティックな気配を全く感じさせずに飄々と用いながら、自らの求める風景や質感を確かな個人的実感とともに淡々と油彩化していくピュアネスの中に、彼女たちの鮮やかな現代性 / 同時代性を見出すことができます。本展のタイトルは、ミーティングの中で挙がったいくつかのキーワードを組み合わせた造語です。“wonder”は冒頭に例示した『不思議の国のアリス』にも由来しています。きらめく2人のワンダーな庭にようこそ。
[Text:田中耕太郎 / インディペンデント・キュレーター]