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普後と魚本は2018年から2020年春頃にかけて、同じ時刻にそれぞれ自分がいる場所で写真を撮るという共同作業を継続的に行ってきた。結果、2枚一組で40組あまりの作品が選ばれ、《at the same time》というシリーズ名でまとめられた。遠く離れた異国と国内で同じ時間に撮られた写真もあれば、同じ都内で同じ時間に撮られた写真もある。
人はそれぞれある土地に生まれ、そこに根付いたり、他の土地へ旅したり、移住したりして一生を過ごす。そこには、同時に生きる無数の視点があり、それが無数の風景を見ている。
《at the same time》は、人との距離が問題になったコロナ禍のなかで、同じ時間を共有する地球上に存在するすべての人々について、想像をめぐらせるきっかけを与えてくれる。
普後は、昔ネパールを旅していたとき、夜宿屋で寝ていて、いまこの時間、友人や家族はなにをしているのだろうと、ふと思った経験があるという。すぐ応答できるメールもSNSもない時代、そんな夜は、遠く離れた相手のことをただ想うしか仕方がなかった。そのときに、このシリーズのアイディアがぼんやりと浮かんだ。
半世紀に渡って写真家として活動してきた普後にとっては、このシリーズはまた、自身がつくりあげてきたスタイルや枠組みから一歩外に出る試みでもあった。普後が主催する写真のワークショップに参加した魚本が相棒として加わり、二人チームで撮影することで、偶然を呼び込むプロジェクトが形を取り始めた。
出張へ出るときがひとつの契機となった。片方がヨーロッパへ旅立つとき、また国内の地方へ行くときなど、二人はただ同じ時刻にシャッターを切った。撮る対象についての打ち合わせはほとんどしなかった。すると、ふたつのイメージが思いがけず呼応し合うことがわかった。最初そのことに気づいたのは、普後がボローニャのホテルで朝撮影した部屋の風景である。ホテルのベランダに棲息している小さい樹木が部屋の窓越しに見える。同じ時刻に魚本が撮っていたのは、台風の後に折れた木を中心に写した森の風景。それは実は渋谷の真ん中にある人工的な庭園だった。このとき、ふたりはカメラ越しに、ふたつの場所で捉えられた気の流れと呼応しながら繋がっていることを感じた。その後、稚内と沖縄の間で、東京とブリュッセルの間で、シエナと東京の間で、ふたつのイメージは呼応しあった。風景の構図、ポイントになる人物や行為に共時性が現れることもあった。
それらは我々の人生でも、実は良く起こっており、シンクロニシティとかセレンディピティとか言われているが、すべて必然をともなった偶然ともいえよう。《at the same time》が示しているものは、偶然を招き入れる隙がある人生を肯定しながら旅を続けるような、ある態度なのかもしれない。