イベント紹介Event Information
この度タカ・イシイギャラリーではマシュー・ルッツ・キノイとナツコ・ウチノによる展覧会を開催いたします。タカ・イシイギャラリーでの初の個展となる本展は、両作家共同で制作したセラミック作品「Keramikos」とマシュー・ルッツ・キノイのキャンバス作品を展示いたします。
2019年8月、ウチノとルッツ・キノイはスペイン・グラナダにあるセラミカス・ロス・アラヤネスにおいてワークショップを開きました。1ヶ月間、作家たちはろくろ制作やプレス成型された300点以上のディナープレート、デザートプレート、ボウル、大皿、水差し、油用の広口瓶などに彩色しました。
このグラナダ・シリーズは、ルッツ・キノイとウチノが2010年にアムステルダムのライクスアカデミーで始めたKeramikosの第三弾であり、ペインティング、ドローイング、パフォーマンスといった多くのジャンルにわたる個々の芸術活動と並行して行ってきたものです。
タカ・イシイギャラリーで展示するセラミックは、歴史的な作品や或る瞬間を追求したもので、ドローイングのモチーフや発想はイスパノ=モレスク陶器、ビザンティン、イスラム、朝鮮の陶器から着想を得たものです。
ウチノとルッツ・キノイが地中海地方のセラミックの伝統に見いだした豊富なモチーフは文化的多孔性の多くの痕跡を現わすものであり、中東からイベリア半島へ、北アフリカを経由して流通があった証拠でもあります。このことは装飾のデザインを研究することによって明らかになります。彼らは特に地中海地方の水盤のモチーフに見られる混交(シンクレチズム)に触発されました。なぜなら、混交が文字、走り書き、書道、文化的クロスオーバーなど「アラベスク」というある種の模様に繋がる全てのものに関係しているからです。
彼らはアンダルシアのセラミックの伝統を地中海の「民芸」と呼んできました。
粘土を形作る欲求は私たち生来のものであり、おそらく世代を超えた記憶のような、もっと深いところにある何かに私たちを結びつけるものです。あらゆる時代を通して時と物作りの歴史を結びつけています。
ナツコ・ウチノ
本展ではセラミック作品の他に、マシュー・ルッツ・キノイは4点のペインティングを展示します。ルッツ・キノイの主な媒体はペインティングですが、往々にして平面を超えて装飾や家具の一つのように周囲に拡張していきます。絵画空間の拡張は、題材の選択や拡大を繰り返す様式化されたモチーフに見てとれます。彼の大型ペインティングは装飾的なタペストリー、あるいは壁のパネル、吊り下げられた天井のように設置されることが多く、観客が物理的に包み込まれる展示空間を華やかに実現します。ルッツ・キノイの作品の軽さは装飾と戯れ、スタイルや「感触」といった強い観念とは距離を置く一方で、様式のルールや事前に確立されている語彙、例えば書道、舞台芸術、日本のセラミック、ロココ様式やフランソワ・ブーシェ、ジャン・コクトー、バルテュスの様式化されたモチーフといった伝統に繋がっています。
絵画作品「Love’s Work Dish in Raku after Leach and Yanagi」はこの混在した語彙に焦点を当てています。パネル構成の右側には、飛び跳ねる鹿、長い耳のウサギの頭などバーナード・リーチのセラミックから切り取られ拡大された、生き生きとしたドローイングが描かれます。絵画作品「City Falcon」では、日本の大津絵に見られる鳥をニューヨークのスカイラインの上に配しています。花のような赤みを帯びた無題の作品は、二人の作家がディナーのイベントを回る時に壁に並んでいるような大型のペインティングを思い起こさせます。作家たちの最近のセラミック作品への粉青沙器(ふんせいさき:朝鮮半島で、李氏朝鮮時代の前半、15世紀を中心に作られた磁器の一種)の影響をもうひとつ関連づけると、「Tiger under a Pine Tree」に1600年代末(李王朝時代)の朝鮮絵画によく使われたモチーフが見えてきます。
本展では、2020年12月にニコラ・トレンブリー編集のもと、フランツ&ウォルター・ケーニッヒが出版した作品集『Keramikos』もご覧いただけます。