イベント紹介Event Information
Yutaka Kikutake Galleryではギャラリーでは3年ぶりとなる田幡浩一の個展「牛乳のある風景」を開催いたします。本展は、新作のペインティング作品4点、ドローイング作品16点に加え、久しぶりの発表となる新作映像作品によって構成されます。
soon ripe soon rotten
ある日スーパーに行くと果物の売れ残りが気になって写真を撮ってみた。
果物は不特定の人々に選ばれなかったものが残っており、売れて無くなった部分は余白となっている。
残された果物は意図せず作られたコンポジションのようでもある。
誰かがさらに一つ買えば、また違うコンポジションが生まれる。
僕はたまたま居合わせたその瞬間の写真を撮り集め、もう一度一つの箱に収め、
残り物のコレクションのような作品を作り始めた。
最終的にこの作品は2018年から2020年の約3年近く集め、1070枚の写真から成る。
場所は主にドイツ、何枚かは日本に帰国していた際に撮った写真も混ざっている。
タイトルの”soon ripe soon rotten ”は「早く熟すれば早く腐る」という意味である。
one way or another (camembert)
とある企画でチーズを描いて欲しいという依頼を受けて、幾つかのカマンベールを描き始めた。
描き始めて気がつくのは表面の白カビの状態、燻製される時の製造過程でついた網の目のパターンなどが個々に全く異なる事である。数時間放置すると中が溶け始めるものも多い。
熟成された期間と、目の前にあるチーズを丹念に描いていく時間を重ね合わせながら、
最後に孕ませるズレが、その二つを「引き裂くようで束ねる形態」に留めているように見える。
one way or another (watermelon), (flat peach), (milk)
この夏から秋にかけて描いた幾つかの油彩。
グラスに入った牛乳は窓からの光を浴びている。
二枚目に描いた牛乳のグラスの底面にはわずかに空の青が反射していることに気がついた。
それを描き終えたところで今回の個展用の作品制作は一区切り置く事とした。
田幡浩一
2016年以降、田幡は油彩とドローイングによる新たな試みとして「one way or another」シリーズを展開してきました。「one way or another」では、絵画が持ちうるズレ—支持体のズレ、モチーフのズレ、視線のズレ、意識のズレなど—を取り込みながら、絵画史の延長線上に新たな絵画の姿を提示してきました。
ベルリンを拠点に制作を続ける作家は、日々の暮らしのなかで、モチーフとなるものを見つけ、丹念に観察し、絵画や映像、ときにはコラージュ作品としてそれらを描き出します。植物やフルーツ、ティーカップやカトラリーといった日用品から、野鳥や昆虫など多岐に渡りますが、そのどれもが人の暮らしと近く、誰もが目にし、手にしたことのあるものばかりです。そうした極めて具象的なものたちの姿に細部まで視線をのばし再構成していくように作られる作品は、日常生活のなかで見落とされ、忘れられてしまいそうなものへの繊細な気づきを鑑賞者にもたらしてくれます。
田幡浩一は、1979年栃木県生まれ。東京藝術大学美術学部先端芸術表現科を2004年に卒業。2006年に同大大学院美術研究科油画専攻を修了。2011年より公益財団法人吉野石膏美術振興財団在外研修助成、公益財団法人ポーラ美術振興財団在外研修助成などを得て、現在はベルリンを拠点に活動しています。その作品は、東京都現代美術館、原美術館などに収蔵されています。