イベント紹介Event Information
この度、nca | nichido contemporary artは、Identity XVI - curated by Kenichi Kondo?展を開催いたします。毎年ゲストキュレーターを迎え、さまざまな視点から”Identity”というテーマについて考察する同展、今年は森美術館キュレーター、近藤健一氏に企画をお願いしました。
My Home?
言うまでもなく、「ホーム」(家・故郷)は私たちのアイデンティティの一部である。それは生まれ故郷という意味でも、今、住んでいる建物という意味でも同様である。スポーツ用語のホームとアウェーという言葉が示すように、「ホーム」は本来、私たちが慣れ親しんだ自分の領域である。しかし、家は永遠に安全な場所であるとは限らないし、時に居心地が悪いこともあり、常に同じ場所が自分の家であるとも限らないのではないだろうか。そして今、新型コロナウィルス感染により、ある人々にとって、家は出ることを許されない幽閉の場となっている。今、家の意味を再考する時が訪れている。
村上慧は、2014年から自作の発泡スチロールの家を移動し、他人の敷地に家を置かせてもらい、その中で寝泊まりするプロジェクト「移住を生活する」を行う。自分の家に住みながら移住を繰り返すこのプロジェクトは、私たちに家の定義の再考を迫り、移民やホームレスの問題を考えさせる。
バスィール・マフムードの映像作品《移動−より良い方へ》(2012)では、茨城県、小貝川の川辺で人々が大きな木製の構造物を運ぶ姿が映し出される。その構造体が家なのか、行先や目的も不明瞭で映像は詩的な趣を持つ。しかし、その背後には、作家の故郷のパキスタンから21人がヨーロッパに密入国しようと船で移動中、コンテナの中で死亡するという事件がある。本作は故郷を捨てより良い場所へ移動する人々の思いに重ね合わされている。
キュンチョメは福島の仮設住宅に住む帰還困難区域の元住人に故郷へと続く道を封鎖するバリケードや放射性廃棄物の入った袋を Photoshopで消してもらい、映像作品《ウソをつくった話》(2015)を制作した。作品では、作家と住民たちの対話が記録されるが、感情の揺れが読み取れる。本当にバリケードがなくなった時、彼らは自宅に戻るのであろうか?
金城徹の連作「あなたのたつところ」(2017-)は透明なフェンスの網に蝶や花が並置される立体作品。作家の故郷、沖縄では、フェンスは米軍基地を象徴するが、当地の人たちにとって日常の一部であり、まるで透明なように意識しにくい存在である。タイトルは私たち観者の立ち位置を問いかける。
岩井優の《フラッグ・クリーニング》(2010)は、作家が台湾滞在中に現地の古い日本式住宅を舞台に制作した映像作品。「国旗も1つの布きれ」と岩井が述べるように、日本と台湾の旗で住宅を清掃した様子を映像に収め、音楽は「三民主義」、「君が代」がミックスさ
れて流れている。国家という大きな存在に翻弄される私たちだが、国家が故郷という意識を形成することも事実であり、私たちはアンビバレンツな思いを抱かずにはいられない。
リム・ソクチャンリナ「国道5号線」(2015)は、カンボジアの首都プノンペンからタイ国境まで続く国道5号線の拡張のために一部を解体された沿道の住宅が主題の写真シリーズ。半壊となっても住み続ける住民がいるというそれらの家は、権力が持つ暴力性も、人々のたくましさも同時に見せている。
ターレク・アル・グセインの写真シリーズ「アル・サワバー」(2015-17)は中東、クウェート・シティの公営集合住宅、アル・サワバーが主題の写真シリーズ。当地のランドマークであったが、老朽化し、政府により最近取り壊された。そのアパートの内部には、かつての住民のさまざまな生活の断片が残されていたが、私たちは想像力により多様な物語を思い浮かべることになる。
本展は、日本語の「マイホーム」という言葉から想起させる、安定し安全で平和な住環境とは異なった、ホーム(家・故郷)の概念を探究する。それらは、私たちの周辺、もしくは遠い地で起きている、移民やホームレス、強制移住や(国家)権力による支配という諸問題に繋がっている。それらは明瞭なものも、自明化されてぼんやりとしか見えないものもあるが、そもそも家とは、そんな、私たちが知っているつもりで実は知らない存在なのではないだろうか。家を疑うこと、それは世界を考えることなのである。
近藤 健一
スケジュールSchedule
2020/8/21 - 2020/9/26
[営業時間]
11:00〜19:00
[休廊日]
月・日、祝祭日
開催場所Place
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東京都中央区八丁堀4-3-3 B1