「Malformed Objects − 無数の異なる身体のためのブリコラージュ」

イベント紹介
Event Information

1989年生まれの評論家・キュレーターの上妻は、活動開始当初から「制作と共同性」というテーマを中心にジル・ドゥルーズ、グレアム・ハーマン、ヴィヴェイロス・デ・カストロなど現代思想から人類学まで様々な領域を縦横無尽に横断しながら、論考やコラムの発表、展覧会のキュレーションを行ってきました。『美術手帖』2016年12月号で発表されたコラム「制作の共同体へ」では、情報空間と物理空間がフィードバックループしながら現実空間を産み出す社会における、制作を媒介にした共同性の生成について述べ、鮮烈な印象を残しました。また、2015年に上妻が企画した「世界制作のプロトタイプ」展では、情報空間と物理空間のフィードバックループを利用しながら制作を行っている作家とともに、鑑賞者がSNS上に投稿した画像がホームページ上で自動的にコラージュされ、それが即座に展示空間のプリンターに出力される仕掛けを作るなど複数の仕方で情報空間と物理空間のフィードバックループを扱ってきました。

本展では上妻は、11名のアーティストと対話を重ねて生み出された作品群と空間を舞台に「来場者への指示書」を示し、展示期間中に来場者の「身体」を変容させ複数化するための「トークイベント」「相互制作」「ワークショップ」などを連続的に企画します。それは「鑑賞者としての主体が対象を観察するという枠組み」から離れて「モノ、情報、人間」が同一の水準で予期された目的の外側にあるフォルムや色彩、濃淡、機能、目的などを転用しあいながら、〈今ここ〉という時間軸だけでなく過去や未来へと時間が折り返されていることを経験するためのプラクティスと捉えています。


上妻のキュレーションとしての制作を動機付けているのは現代社会に対する違和感です。情報空間と物理空間が入れ子状となり、フィードバックループの中で繰り返し主客を入れ替え、相互生成している複雑で新しい社会が形成されている一方で、近代的な枠組みで世界を認識しようとしている人々が根強くいます。近代的な枠組みの元で世界を認識し、制度や文脈を作り上げることは、現状の社会状況と大きく異なるため、当然齟齬が生じます。彼は現代社会における「共同性」を真に考えるためにはその齟齬を複雑なままに様々な仕方で表現することが必要であると考えています。そのために彼は論考やコラムなどで現代社会について単純化することなく可読化し、その前提条件を引き受けた上での「制作と共同性」というテーマを掘り下げています。また、その理論を背景に展覧会やアート作品の形で複雑なものを複雑なままに可視化することを目指しています。
今展に先立って、彼はまず2016年8月にシンポジウムを催し、そこで以下の3つの問題を提起しました。

1. 自律性の別の仕方での回帰:
リレーショナルアートやプロセスアートのように関係性や多様なプロセスの内の一つへと作品が還元されてしまう現状において、モダニズムとは違う形での自律性は如何にして構築されるのか? 自律的かつ魅惑的な、象徴的に汲み尽くすことのできない作品を作り出すことは現代において志向可能なのか? グリーンバーグは媒体固有性を重視する中で絵画の平面性を追求することから、彫刻的イリュージョンではなく「浅い奥行き」を称揚したが、同様に現代社会におけるオブジェクトの自律的な魅惑を歴史の中でどのように定義付け得るか?

2. すべてのモノたちの為の芸術:
人間や作品が世界を記述する特権的な地位は剥奪され、多様かつ自律的な複数のパラメーターのうちの一つへと縮約される時、相関メディアとしての人間は動物や植物、無機物と同様に、フラットな存在論的役割が与えられる。そこでは各々のモノたちが各々のモノたちと接触し、各々の環境世界が異なる為にスレ違いだけが生じる。その認識によって人間の身体の写像としての作品や建築に対して批判的な視点が開かれる。つまり人間の為の芸術から人間を含めたすべてのモノたちの為の芸術が宣言される。


3. 理論と実践の自律的かつ代替因果的な関係の構築:
自律的なモノたちの世界において理論と制作は水平的関係となる。ジャンルにおいても、哲学、芸術、建築、そして情報科学も自律的かつ関係的な状態を産みださなければならないであろう。ニーチェがワーグナーに批評を捧げるように、ゲーテに対してヴェートーベンが音楽を捧げるように、異なるジャンルが自律性を維持しながら、直接的ではなく歪んだ仕方で干渉し合う空間を再度立ち上げる必要がある。

そこで上妻は本展に参加するアーティストと上記の問題について対話を繰り返し、それに基づいて、本展の作品制作とインスタレーションを構成していく土台を作りました。
彼が重視するのは、来場者がモノと無数の関係を結ぶ中で、モノが持つ単独的な時間が流れるという点です。普段私たちは無数の個別のモノたちによって構成される環境で暮らしているにも関わらず、殆どのモノたちに注意を向けることがありません。しかし、「商品」とは違って、芸術作品はそれ自体が持つ内在的な時間の内側へと来場者を誘い込む「魅惑」を持っていなければなりません。その誘惑によって、来場者は「見ること」「聴くこと」「読むこと」など複数の関係をモノと結び、それによって単独的な時間が生成されるのです。彼は来場者に複数の仕方で、複数のリアリティの形式を経験させることを設計したいと考えています。彼はそれによって初めて、モノは作品として立ち現れると考えているからです。モノは作家が意図した以上のフォルムや色彩、機能や目的、概念、そして結合の可能性を湛えています。それは次なるモノを産み出す魅惑として、人間とモノを媚態し続けているのです。それは、潜在的な可能性を切り開き、複数の時間軸へと折り返されながら、再度モノへと現勢化するというフィードバックループを生み出しているのです。

更に上妻は「制作」という視点から世界を眺めることで、初めて「モノ」と「情報」と「人間」が同一の水準で扱われ、相互生成している仕方を理解出来るということを示し、「鑑賞すること」「消費すること」といった態度は現代社会の複雑性を扱うには不適切な振る舞いなのではないか?と疑問を投げかけます。

モノたちは異なる仕方で常に相互生成し続けています。〈今ここ〉で身体に備わっている振る舞いや仕草は固定的なものではなく、異なる複数の時間軸へと常に折り返され、異なる身体への入口にもなります。 上妻は本展で空間だけでなく同時に「身体」を制作することを目指しています。

会期中には様々なトークセッション、ワークショップなどを予定しております。詳しい情報につきましては、弊廊ホームページにて随時お知らせいたします。

アーティスト
Artist

池田剛介、urauny、大和田俊、木内俊克、篠崎裕美子、 高田優希、永田康祐、平野利樹、松本望睦、三野新、涌井智仁

スケジュール
Schedule

2017年1月21日(土) - 2017年2月25日(土)
[開廊時間]
11:00-18:00(火-木/土)、11:00-20:00(金)
日曜・月曜・祝日休廊

開催場所
Place

山本現代
東京都品川区東品川1-33-10 Terrada Art Complex 3F  

その他概要
Outline

[オフィシャルサイト]
http://www.yamamotogendai.org/japanese/exhibitions
「Malformed Objects − 無数の異なる身体のためのブリコラージュ」